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[LIXILのガバナンス]2019.5.1

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 株式会社LIXILグループというのは、複雑な組織統合を繰り返して巨大化した会社ですが、平たく言うと、2001年に、トステムとINAXが経営統合したことにより、現在の形の原型を形成したものと言えます。トステムというのは、従前、トーヨーサッシ株式会社の名称で、窓サッシなどの住宅建材の製造販売を行っていた会社です。一方、INAXというのは、伊奈製陶株式会社の名称で、トイレ、シャワーなど水回りの住宅建材の製造販売を行ってきた会社です。その後、会社分割で持ち株会社を設立させ、その下に事業会社としての株式会社LIXILをぶら下げて、2011年に、事業会社であるトステムとINAXは、買収した新日軽、東洋エクステリアと合併をして、持ち株会社LIXILグループと、事業会社LIXIL及びその他の事業会社という体制になっています。

 LIXILグループの経営は、潮田洋一郎氏が、取締役兼代表執行役会長兼CEOを、山梨広一氏が、取締役兼代表執行役兼COOを担っています。潮田CEOは、トステムの創業者の息子だったのですが、INAXとの経営統合以後、LIXILのいわば“キング”として君臨し、同グループの勢力拡大を目論んできました。そのために、外部からプロ経営者を招聘し、海外のM&Aを華々しく展開してきましたが、ドイツの会社グローエ買収については、同社の中国子会社に莫大な含み損があることが判明し、また買収したイタリアの建材子会社ペルマスティリーザが500億円を超える損失を今期に計上することとなりました。潮田CEOは、グローエ買収の失敗については、当時のCEOである藤森義明氏を首にし、次に外部からCEOとして呼んできた瀬戸欣也氏については、今回のペルマスティリーザの損失の責任を取らせる形でCEOを解任してきました。

 さすがに、瀬戸氏の解任劇をみて、LIXILグループの大株主から疑問視する声が高まり、解任の手続に問題があるのではないか、そもそもそれらの海外M&Aは潮田氏がけん引役なのであり、潮田氏こそ退任すべきではないかという圧力が高まりだしました。瀬戸氏は、それら反潮田勢力を集め、自らCEOに返り咲くための株主提案まで考えているようです。

 今回法的な観点から問題になっているのは、LIXILグループというのは、会社法上、「指名委員会等設置会社」の点です。「指名委員会等設置会社」というのは、2003年施行の「委員会等設置会社」が、2015年の会社法改正で名称が変更されたものです。会社法において株式会社の機関として想定されるのは、代表取締役、取締役(取締役会)、監査役ですが、指名委員会等設置会社においては、(監査役は置かれず)取締役会、執行役、指名委員会、監査委員会、および報酬委員会が置かれることとなります。三委員会の決定は法的に拘束力を持ち、また、三委員会を構成する取締役の過半数は社外取締役でなければならないことになっています。何故、このような指名委員会等設置会社というシステムができたかというと、株式会社においてはあまりに代表取締役の権限が強く、特に人事、報酬決定に関し、恣意的な権限行使が見られたので、代表取締役の業務の適正化を図るために、会社の人事、報酬決定を外部取締役も加わる指名委員会、報酬委員会において委ねていこうというのが会社法の趣旨でした。米国のグローバル企業においては、指名委員会等を設置する会社はよく見られるところです。

 今回、LIXILグループにおいて問題となったのは、潮田氏が誤解を与える事実を告知して、指名委員会の決議に影響を与えたのではないかという点です。指名委員会は、株主総会に提出する取締役の選任および解任に関する議案内容を決定する権限を有しているところ、潮田氏は、瀬戸氏が自ら辞任したいという事実を指名委員会に伝えて、同氏の解任を決議したのですが、実は瀬戸氏は自ら辞任の意思はなかったという表明をし、指名委員会の決議自体に問題があるのではないかということになっています。
 今後、同社の指名委員会がどのような決定をしていくかが興味を引くところですが、やはり現行の指名委員会制度がはたして株式会社の適正な業務執行を担保するためのコーポレート・ガバナンスに資しているかというと極めて疑問符が残ると言わざるを得ません。というのも、指名委員会のメンバー、特に外部取締役を選任するのも結局は、会社の取締役会、もっと言えば代表取締役であり、代表取締役の考え方を“忖度”する人物が選ばれる可能性は極めて高いと言わざるを得ません。また、会社法上、監査委員会を除き、執行役が委員を兼任できることとなっていますので、代表取締役自身(取締役も執行役を兼任できる)指名委員会のメンバーとなりうるし、そうでないとしても代表取締役の意向を忖度する執行役が指名委員会のメンバーになるのであれば、何ら通常の株式会社の取締役人事と変わりがない、指名委員会と言ってもガバナンスが効いていないと言わざるを得ません。本当に、指名委員会が独立的に公平公正の観点から、会社の取締役を選任していくというのであれば、指名委員会は全て外部取締役とすべきでしょうし、その選任についても代表取締役の恣意が介入しない工夫が必要となると考える次第です。

 今回のLIXILの問題においても、多くの外野は、指名委員会と言っても、潮田氏の意向を忖度するメンバーで構成されているのであり、万が一にも潮田氏を取締役として指名しなかったとしても、潮田氏の意向を対するメンバーを取締役とすることで、潮田氏の院政を認めることになっていくのではないかとみており、LIXILのガバナンスは、結局適正化するかどうか疑問だと言わざるを得ないでしょうか。
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