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英国のEU離脱問題(下)

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[英国のEU離脱問題(下)]2016.12.1

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 前月は、UKが“本当に”EUを離脱した場合について色々と考えてみましたが、では逆にUKが「離脱はやめました」ということがあり得るかについても検討してみました。これもなかなか考えてみると(極東のEUと直接の関係のない一市民としては)面白いテーマです。

 このテーマの根源には、キャメロンが行った国民投票とは何だったのか、UKの憲法上どのような位置付けにあり、どのような法的な効果が生じているのかがきちんと整理されていないことにあるのではないかと思います。もし、憲法上、何らの効果も発生しないということになれば、単なる政府の行ったアンケート調査に過ぎなくなるからです。これが日本であれば、前回でも述べたとおり、憲法改正であれば、日本国憲法96条において、国民投票を行うことが憲法上の効果を生じさせる制度として存在します。別な言い方をすれば、日本では憲法96条に基づく国民投票以外憲法改正の効果を生じさせる明文の規定がありません。
 問題なのは、UKは、日本国憲法というような明文での憲法典が無い不文憲法国家です。誤解が無いように申し上げれば、文章で書かれた憲法が無いということで、実質的意味での憲法(国家の基本法と人権に関わる権利章典)は当然存在するわけで、それらが“一部”文章化されたのが、1297年のマグナ・カルタであり、1688年の権利章典であるのです。“一部”と書いたのは、結局目には見えずとも憲法という総体としての存在があり、それの一部が目に見えているのが、マグナ・カルタなどだというものです。そうだとすると、今までに成文化されていなくてもあるべき姿の憲法としてある規範が存在することが観念できるのです。

 UKにおいては、実質的憲法として認められたきたものとして「国会主権の原則」があります。すなわち、国王・貴族院・庶民院の三者からなる国会だけが、つねにどの会期においても法的に無制限の立法権をもち、また国会以外の何人も(ゆえに裁判所も)、国会の立法を無効としたり適用を拒否したりできないというものです。この国会主権の原則についてUK国内において一義的に理解されていればいいのですが、じゃあ国民投票というのを国会で制度として認めたとしたら、国民投票による結果は国会主権の原則よりも優越するのかという議論になってくるのです。国民投票も今まではそのような制度はなかったけど、単に成文として成立していなかっただけで、実は憲法という観念に含まれるのだと。
 感覚的には、国民が直接意思表示をした直接民主主義的な制度であるから、間接民主制である国会による議決よりも、“民主的”と見えるのですが、必ずしも直接民主主義の方が、間接民主主義よりも優れた制度とは言えないのです。UKでは(驚くことに)2009年に最高裁判所というものを設置しましたが、なんとそれまでは上院の中に最終審裁判所が存在していたのですね。で、この最高裁判所に違憲立法審査権があるかというと、どうも私が調べた限りでは明確ではありません。となると、今年の6月に行った国民投票について、憲法上の効果があるとも主張できるし、ないとも主張できることになり、しかしながら司法制度のみならず現在のUKの国家システムで白黒をはっきりさせることはどうやら難しいのではないかと思われます。

 もしメイ首相が熟慮を重ねて、やはりUKとして離脱すべきではないという判断になった場合、臆することなく、「2016年6月の国民投票は、キャメロンが単に国家レベルで行ったアンケートに過ぎず、実質的憲法の基本原則である国会主権主義に優越するものではないので、政府として何ら拘束されない。従い、EUに対しても離脱宣言の意思表示はしない。」と言い切ってしまえばいいのではないかと思います。もとより、UK議会が当該国民投票の結果を承認しない決議をしてしまえばよりよいのですが、現在のUK議会における議決はどう転ぶかわかりませんからね。メイ首相が断固として行ってしまえば、意外と国民はサッチャー首相以来の一徹者という評価で、政治的に支持してくれるものと思うのですが。
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