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傾きマンション問題の行方

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[傾きマンション問題の行方]2015.11.1

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 三井不動産レジデンシャルが平成18年に販売した横浜市都筑区のマンションにおいて、建物が傾いているという住民の指摘により、販売業者である三井不動産レジデンシャルと施工業者である三井住友建設が調査したところ、約50本の杭のうち計8本の杭が強固な地盤まで届いていないことなどが判明したというニュースが流れました。
 驚くことになんと、元請施工業者の2次下請け業者である旭化成建材が、問題の杭の施工記録を支持層に届いている杭のデータと差し替えていたというのです。住民としては、怒り心頭ということで、販売業者である三井に責任を追及するという事態に至っています。さて、このような場合、住民としてはどのような法的責任追及ができ、また販売業者としてはどのような責任を負い、施工業者はどのような責任を負うのかを考えてみたいと思います。

 まず、住民が取りうる責任追及の方法です(とりあえず、三井は瑕疵があったことについて善意である前提で進めます。)。住民というのは、当該マンションの専有部分を購入した区分所有者たちということになりますが、売買により当該区分所有権を購入したということで、民法570条に基づき、売買における瑕疵担保責任を、売主たる三井に追及しうることになります。ここで問題は、民法上の瑕疵担保責任には、「瑕疵があることを知ってから1年以内」という期間制限があり、一見、今回瑕疵があることを知ってからまだ1年も立っていないので大丈夫かと思いますが、三井は当該マンションを宅建業者として売却していることから、宅建業法40条に基づき、「引渡から2年以上の期間」を定めて責任追及期間を特約していると思われますので、もしその特約で定めた責任追及期間を経過していると、買主たちは、瑕疵担保責任を追及できないこととなります。
 それでは泣き寝入りかというと、三井は売買契約において、「アフターサービス基準」に基づく責任特約を付していると思われます。この基準においては、「構造耐力上影響があるもの」については責任期間は10年となっておりますので、今回の様な支持杭を支持層まで売っていないという瑕疵については、「構造耐力上影響がある」と言えるでしょう。しかしここで問題は、アフターサービス基準では、契約の解除とか、損害賠償が規定されておらず、ただ修補請求ができるとだけ規定しているのです。それでは、他に責任追及できないかというと、住宅品確法というのがあり、その94−97条で、新築住宅の売買については、「構造耐力上主要な部分」については、引渡から10年間(もしくは施工業者から売主に引き渡された時は、売主に引き渡したときから10年)瑕疵担保責任を負うとされています。
 本件において、平成18年以降に住民に引き渡しがなされているとすると、どうやら住宅品確法の適用がありそうです。住宅品確法では、契約の解除、損害賠償が追及できますので、住民としては、住宅品確法で責任を追及するのでしょう。現時点(10月16日)で、三井側は早々と、売却した区分所有権の買い取りを表明していますが、これは住宅品確法での責任は免れないと考えたことに加え、今後三井のマンションに対する風評被害の拡大を防止することを考えたものと思われます。ニュースなどでは、住民らは、区分所有法上のマンション建替えは、区分所有者及び議決権の各5分の4条の多数によらないと決議できないから困っているという報道がなされましたが、別に自分たちで建替え決議することもなく、三井に対する責任追及すればよろしいので、建替え決議まで考えなくてもよろしいかと思う次第です。三井としては、各区分所有権を区分所有者の頭数及び議決権の各5分の4以上買い取った後で、建替え決議をすればいいものと思われます。建替え決議が成立すれば、三井が買い取りできなかった区分所有権についても、区分所有法63条4項で、売渡請求ができますので、最終的には全ての区分所有権の買い取りができることとなります。

 さて、問題は、施工業者たちの責任です。注文者の三井と元請施工業者である三井住友建設との間には、請負契約が成立していますので、民法の請負契約に係る瑕疵担保責任が追及できることとなります。民法638条においては、土地の工作物の請負人は、「石造、土造、煉瓦造、又は金属造」の工作物については、10年間瑕疵担保責任を負うとなっていますので、鉄筋コンクリート造りと思われる今回のマンションも適用がありそうです。なお、建物の請負についての瑕疵担保責任においては、契約の解除ができないこととなりますので、三井が住民たちに支払った損害賠償金、もしくは再築に係る費用が損害となり、賠償請求できることとなりましょう。ただし、建物請負契約については、業界において契約フォーマットができており、その中で担保責任を制限するような特約が存在する可能性がありますので、責任追及はそれ次第かと思われます。

 もとより、一番責任を負わなくてはならないのは、データ改ざんまでした旭化成建材でしょう。旭化成建材は、一次下請けである日立ハイテクノロジーと請負契約をしているでしょうから、まず請負人としての瑕疵担保責任があります。もし、注文者である日立ハイテクとの間の契約で責任についての軽減特約があったとしても、民法640条で、「請負人は第634条及ひ第635条に定めたる、担保の責任を負はさる旨を特約したるときと雖も、其知りて告けさりし事実に付ては其責を免るることを得す。」と規定されていることから、責任を免れることはできないと考えられます。元請業者三井住友建設、1次下請け日立ハイテクとも責任を等閑視するとは思えませんので、結局、区分所有者には三井から損害賠償を支払、三井には三井住友建設から、三井住友建設には日立ハイテクから、日立ハイテクには旭化成建材から支払われるということになりましょう。

 旭化成建材は、現時点では、建替えまで不要と主張していますが、データ改ざんまでしたことによる責任の履行としてそんなに甘くはないと思います。何よりも、「故意」であることから、区分所有者たちから、契約関係に係らず、直接不法行為に基づく損害賠償責任を追及される可能性も十分ありますし、裁判所も“ウソツキ”には厳しいですから、旭化成建材としては、これ以上信用が失墜しないうちに、十分な責任を取るのが上策であると考えられます。親会社の旭化成としても、レピュテーションリスク回避のためにも子会社の責任を取る覚悟で本件には望むべきでしょう。何よりも、姉歯事件であれほどデータ改ざんなどの悪質な行為についてはしっぺ返しが大きいということを学んだにも拘らず、今回このようなことを繰り返していることについては、あきれる限りです。姉歯事件では、デベロッパーであるヒューザーは結局倒産してしまっています。旭化成建材の誠意ある対応を望む限りです。
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