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子供の不法行為についての親の責任−サッカーボール訴訟最高裁判例

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[子供の不法行為についての親の責任−サッカーボール訴訟最高裁判例]2015.5.1

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 先日、最高裁判所が、子供の不法行為についての親の責任に関する事件につき、注目すべき判決を下しました。事件の内容というと、愛媛県今治市の小学校で、小学生(当時11歳)がサッカーの練習をしていて、ゴールに向かってシュートしたところ、大きくボールはゴール枠を外れ、校庭の外に出てしまい、ちょうど小学校の横の道路をバイクを運転していた高齢の男性に当たりそうになった男性がボールをよけたところ転倒してしまいました。男性は、骨折してしまい、その後認知症の症状が出て、1年半後に肺炎で死亡したというものです。死亡した男性の遺族らが、不法行為に基づく損害賠償請求の訴えを提起しましたが、当のボールを蹴った男性は当時小学生であり責任能力がないとのことで遺族らは、小学生の親に対して、民法714条に基づき損害賠償請求したというものです。
 民法714条は、「前二条の規定により責任無能力者がその責任を負わない場合において、その責任無能力者を監督する法定の義務を負う者は、その責任無能力者が第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。ただし、監督義務者がその義務を怠らなかったとき、又はその義務を怠らなくても損害が生ずべきであったときは、この限りでない。」と規定しており、子供など責任能力(小学生であれば、第三者に対して被害を与えたとしても、行為の善悪が判断できないので、責任を負わないということです。)がない場合には、親などの監督義務者が子供の賠償責任を負うというものです。ただし、監督義務者がその義務を怠らなかったとき、またはその義務を怠らなくても損害が生ずべきであったときは免責されると但書で規定されています。
 私が司法試験の勉強をしていたころは、但書の適用は極めて厳しくて、“子供の不始末は親の責任”ということが原則でありましたから、ほとんど無過失責任のようなイメージがありました。ですから、今回の最高裁の判決はオヤッと思わせるものがありましたので、早速判決文を読んでみました。

 まず今回の最高裁判決による事実認定としては、加害者は11歳の少年であり、被害者は85歳の男性、少年は、放課後に公開されていた校庭においてサッカーの練習をしていた、ゴールから門までは10mの距離があり、門の高さは1.3m、門の左右には1.2mの高さのネットフェンスが設置されており、さらに門から道路までは1.8mの幅の側溝があり、門と道路は橋が掛けられていた、少年が蹴ったボールが校庭から門を越え、橋の上を転がり、道路に出てしまい、男性はボールをよけようとしてバイクを転倒し、骨折の傷害を負い、入院から約1年半後に肺炎にて死亡したというものです。裁判における争点は、少年の両親が少年に対する監督義務を果たしているかということになりました。監督義務を果たしていたとすると上述のとおり、法律上は両親は賠償責任を免れることとなるからです。
 最高裁判所は、「本件校庭の日常的な使用方法として通常の行為である。」「ボールが本件道路上に出ることが常態であったものとは見られない。」「本件ゴールに向けたフリーキックの練習は、上記各事実に照らすと、通常は人身に危険が及ぶような行為であるとはいえない。」「通常は人身に危険が及ぶものとは見られない行為によってたまたま人身に損害を生じさせた場合は、・・・子に対する監督義務を尽くしていなかったとすべきではない。」と判断して、少年の両親の賠償責任を否定しています。
 私の目から見ても、道路の真ん中でサッカーの練習をしていたわけでなく、外に出てしまったボールがまるで作られたドラマの様に橋を渡り、道路に出て、誠に運が悪いとしか言えないのは、交通量の少ない道路なのに、たまたま、それも85歳という運転免許を返上している人も多い中で、バイクという自動車よりもある意味高度の運転能力を要求されるバイクに乗っていた人が、ボールを避けれなかったという偶然に偶然が重なったものであり、やはり万が一にも親の子に対する監督義務が観念できたとしても、そもそもその監督義務違反と結果との間の相当因果関係が無いと言わざるを得ないのではないでしょうか。お気の毒ではありますが、ボールを避けるために骨折の傷害を負ったところまでは、万が一にも監督義務違反があったとしても、そこまでの責任を負うまでであり、最高裁判決の事実認定では書いていなかったものの、その傷害から認知症になり、認知症から最後はそれも1年半も後に肺炎で亡くなられたということで、誠に申し訳ないながら、風吹けばおけ屋がもうかる論理といえるのではないかと思う次第です。
 被害者の代理人に対しては、色々と思うところがあります。少年の蹴ったボールが本来あってはならない校外に出てしまうことの責任を追及するのであれば、なぜに小学校、すなわちこの場合は今治市を訴えなかったのでしょうか。1.3mの門とか、1.2mのネットとかは、小学校中学年の身長と同じくらいであり、とても満足な高さとは言えませんし、わざわざ道路に向けてゴールを設置していたことについて少年とその両親の責任以上に行政の責任があると言わざるを得ません。また、85歳という高齢者に運転免許を交付し続けた公安委員会は全く責任が無いのでしょうか。弁護士として請求の立て方というのは、単に勝ち負けの問題だけではなく、それ以上に人々の人生に影響を与えるものだということも再認識した次第です。
 いずれにしても今回の最高裁判決は画期的といわれるのは、同様の事件についても影響が出てくる可能性があるからです。2007年に愛知県で認知証の91歳の男性がJRの線路に入り込んで電車にひかれて死亡した事件で、JR東海は、男性の配偶者および子に対して監督義務違反による損害賠償を請求したもので、控訴審で男性遺族が敗訴しており、現在上告中なのですが、今回の判決はどのように影響してくるのでしょうか、興味があるところです。JR東海事件の事実関係はあまり分からないのですが、それではJR東海として、認知証の人のみならず、普通の人でも簡単に線路に入らないようにする措置を施していたのか、逆にJR東海に安全配慮の措置の責任を問われる可能性だってあるのではないでしょうか。

 少年はもう23歳になっているとのことで、多感な青春期にたとえ故意ではないにしても、結果として自分の行為で人が死亡してしまったということで、相当人格形成に影響があったのではないでしょうか。1審、控訴審で敗訴していながら、最高裁まであきらめずに頑張った代理人弁護士にも頭が下がる思いです。弁護士というのは、決して、最後の最後まであきらめてはいけないという見本ですね。
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