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青色発光ダイオード訴訟とノーベル賞

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[青色発光ダイオード訴訟とノーベル賞]2014.12.1

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 今年のノーベル賞物理学賞は、中村教授ら日本人3人が受賞されました。なんだかんだ言っても、日本の科学技術力の高さが証明されたものとして、非常に喜ばしいニュースです。
 しかしながら、中村教授のコメントは、「研究の原動力は怒り。」という今までの受賞者の中では特異な発言をしたことに驚きました。一方、中村教授がかつて所属していた日亜化学工業のコメントは、「中村氏を含む多くの日亜化学社員と企業努力によって実現した青色LED」という表現で、中村教授の受賞を称えて(?)いたのも極めて特異な印象を受けました。正直、ノーベル賞受賞者としても、ノーベル賞受賞者輩出企業としても、いずれも大人げない態度と感じたのは私一人ではないと思いました。少し前に、田中耕一さんがノーベル賞を受賞した際、所属する島津製作所に対する感謝の念を示し、島津製作所も彼を同社のフェローに就任させるなど、相当の敬意を払ったということが、対峙的に思い出されます。

 そもそも、両者間のこのような対立が見られたのは、皆さんもかつて耳にされたことがある、青色発光ダイオードに関する404特許についての訴訟でした。訴訟での中村氏の日亜化学に対する請求は、法的構成として、(1)発明者である中村氏は、404特許を職務として発明していないし、日亜化学に当該特許を譲渡もしていない、すなわち勝手に日亜が中村氏の特許を使って(実施)いるので(不当利益も含めて)返せという構成、それが認められない場合の予備的請求と言いますが、(2)404特許は職務として発明していないが、日亜化学に譲渡したと認定されるならば、その対価を(不当利益も含めて)支払え、(1),(2)とも認められなければ、すなわち、(3)404特許は、職務発明であると認定されたならば、職務発明の対価を支払えというものでした。
 さらに分かりにくくしているのが、それらの主位的請求、予備的請求が一部請求であるものでした。一部請求というのは、ご存じと思いますが、訴訟提起する場合には、手数料として印紙をはらなければなりません。請求額(訴額と言いますが)が1000万円であれば、印紙代も5万円で済みますが、訴額が1億円だと印紙代は、32万円にもなります。ということで、中村氏は一部請求としてとりあえず1億円を訴額として32万円の印紙を収めたようですが、訴訟の推移を見てそれ以上確保できそうだと判断すれば、訴えの変更により訴額をアップさせて、追加的に印紙を収めます。中村氏は最終的に、200億円は取れそうと判断し、総額2602万円の印紙を納付しました。
 一審の東京地方裁判所は、上述(1),(2)の法的構成を採用せず、結局(3)の構成を取り、職務発明の対価として、日亜化学から中村氏へ200億円を支払うようにとの判決を下しました。裁判所は、404特許の価値を604億円と認定して、その価値の50%は中村氏の貢献と判断したものですから、中村氏は(印紙さえ納めていれば)302億円まで支払を受けることができたことになりますが、これは結果論ですね。

 ところが、日亜化学から控訴されたので、東京高裁でも審理がなされましたが、裁判所からの強い和解の勧めがあり、結論的に“たったの”約6億円で和解が成立しました。この和解成立は、結構世間の耳目を集めました。何よりも一審判決が200億円、それも印紙さえ貼っておれば302億円まで得られるものが、第三者的には“たったの”6億円で和解したのはなぜそうもギャップが出てきたのかというところでしょうか。和解成立時の記者会見では、中村氏は結構怒りをぶちまけており、これも通常は和解成立時は、全面的に納得できていなくても、まあ納得できるところがあったので和解したという雰囲気が出るものですが、中村氏はまるでみんなに丸め込まれて和解したという感じで、ある意味、異様な雰囲気でした。
 高裁での和解がなぜそこまで低額になったかについては、和解内容は公開されるものではないので、確定的なことは言えないにしても、どうやら、404特許自体の価値も一審の東京地裁が査定したほどではなく、また、中村氏の貢献度もさほどではないという高裁の心証が強く働いたのではないかと言われています。そうだとしてもです、そんなに納得いかなければ、中村氏も和解しなければよかったのではないかと思う次第です。もちろん、高裁がそこまで強く和解を勧めたからには、相当程度高裁の心証程度を開示して、とすればその心証程度が判決に直結する可能性が高いと言えるとしてもです。最高裁まで戦っても、第三者的に高みの見物でいえば、中村氏・日亜化学とも知財訴訟では高名な弁護士を代理人に付けていたことから、上告審も全く勝ち目が無いことはなかったと思うのですが、これも後付けの理論かもしれません。更に後日談としては、日亜化学は、404特許を維持する必要が“完全に”無くなったので放棄したということです。両者間の溝の深さは、第三者からは計り知れないものがあります。

 なによりも、結局、この和解では、中村氏・日亜化学は、究極的な納得ができていなかったということです。図らずも、中村氏がノーベル賞を受賞したことで、両者のコメントから明らかになったというものです。和解というのは、お互いが譲り合って紛争を解決するものと民事訴訟法で習いましたが、どうもこの二者は互譲という感じではありません。単なる金額だけの問題ではなく、心の問題においてもある程度は納得のいく和解ができなかったのか、ノーベル賞を受賞するような意義のある発明だけに残念です。
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