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[池井戸潤の世界]2020.12.1

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 作家池井戸潤原作のテレビドラマ「半沢直樹」も好評のうちに最終話を迎えました。ネットなどでは、香川照之扮する大和田晄取締役が前シリーズを比較すると「善人役」になっているのではという批判(?)があったのですが、これは多分にプロデューサー、脚本家も困っていたことではないかと思います。というのも、原作では、「善人役」で半沢直樹の上司である内藤部長というのがいるのですが、前シリーズで内藤部長を演じていたのが吉田鋼太郎でしたが、今回のシリーズでは、NHKの「麒麟が来る」に吉田鋼太郎は松永弾正という結構要の役で出演していますので、「半沢直樹」には体が二つ無いので出演できず、結局、内藤部長役を大和田取締役がカバーすることとなり、悪人役と善人役を両方演じるということになったからです。同様に、半沢直樹の同僚である近藤直弼も、今回のシリーズでは「シンガポールに長期出張している。」ということで画面に現れませんでしたが、実はシンガポールではなく、「麒麟が来る」に足利義昭役というこれも結構要の役として出演しているからです。

 雑談はともかく、「半沢直樹」を面白く視聴したことに刺激されて、今回のシリーズの原作である「ロスジェネの逆襲」「イカロスの銀翼」は当然、他の池井戸潤の作品を結構読み漁りました。例えば、「陸王」「アキラとあきら」などですが、「空飛ぶタイヤ」も非常に面白かったです。「空飛ぶタイヤ」の話の概要は、“タイヤ脱落事故と大手自動車メーカーのリコール隠しをテーマにした作品であり、事故を起こした運送会社の社長である主人公が、自社の無実を証明すべく巨大企業の闇に挑む経済小説です。2002年に発生した三菱自動車製大型トラックの脱輪による死傷事故、三菱自動車によるリコール隠し事件などを物語の下敷きとしています”(ウイキペディアから抜粋引用)。主人公である運送会社社長は、事故を起こしたトラックの部品であるハブをメーカーであるホープ自動車に調査のために提出していましたが、調査結果が「(運送会社の)整備不良」という結論に憤慨して、自ら調査をするので、問題の部品であるハブを返してほしいと、ホープ自動車に要求したところ、ホープ自動車は言を左右にして、その部品を返そうとしません。その部品に欠陥があったために、返還できなかったのです。そこで、運送会社社長は、弁護士と相談して、所有権に基づく当該部品の返還訴訟を提起したのですが、結局当該部品ハブは、ホープ自動車にて廃棄処分されてしまい、運送会社社長は、ホープ自動車のリコール隠しを暴く重要な証拠を失ってしまったというものです。

 では、運送会社社長は、他に打つ手がなかったのでしょうか。私であれば、民事保全法に基づき仮処分を申し立てるという手段を選択したと思います。民事保全法においては、将来なされるべき強制執行における請求権の満足を保全するために、さしあたり現状を維持・確保することを目的とする予防的・暫定的な処分であり、仮差押え、係争物に関する仮処分および仮の地位を定める仮処分をその内容とするものです。部品に欠陥があることが強く想定された本件においては、訴訟などという時間のかかる手続きを経ていては、“将来為されるべき強制執行における請求権の満足”を図ることができなくなる可能性があります。
 端的にホープ自動車が当該部品を廃棄してしまうなどのリスクがあるからです。そこで、「仮の地位を定める仮処分」を申し立て、裁判所の決定により、ホープ自動車に当該部品のハブを”仮に”運送会社に引き渡させるという仮執行をなさせることで、重要な証拠の確保を図ることができるというものです。このように、相手方に占有がある物を強制的に引き渡しをさせるのですから、この仮処分を特に「満足的仮処分」「断交的仮処分」と言い、訴訟手続を経る前に実質的に“満足”を得ることができるというものです。
 従い、裁判所としてもこの仮処分決定を出すには非常に慎重であり、仮処分決定を出す要件としては、被保全権利の存在および保全の必要性の存在が必要であり、両者は疎明することを要するというものです(民事保全法13条)。この件では、当該部品のハブは、運送会社の所有であることはホープ自動車も争いのないところですので、「被保全権利の存在」の疎明は容易でしょうし、また、ホープ自動車は以前にもリコール隠しを行っていたという前科があることからも、ほっておけばホープ自動車において部品が捨てられてしまいかねないという意味で「保全の必要性」も十分疎明できるものと思われます。保全の必要性の観点からも、ホープ自動車側の釈明を聴くことなく、仮処分決定がなされる可能性が高いと思われます。

 実際に、ホープ自動車に対して当該部品のハブを、運送会社に引き渡せという仮処分決定が出たならば、執行官が何の前触れもなく、ホープ自動車の当該部品ハブの保管場所に出向き、当該部品をホープ自動車の占有から、運送会社の占有に移すという仮執行がなされ、運送会社としては、当該部品のハブを公正な検査機関に持ち込み、事故の原因が何であったかを明らかにすることができたと思われます。このように裁判という時間のかかる手続きを経ていたのでは、たとえ勝訴判決が出ても、実効性がなくなっているということを避けるために仮処分という手続きが存在します。私も、緊急性が高い案件については、積極的に保全手続を利用し、保全ができたことを梃子として、相手方と和解ができたりしますので、どのような仮処分決定をもらえれば、こちら側の権利実現につながるかを常に考えて相談者との打ち合わせに臨んでいる次第です。
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