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危険運転致死傷罪について

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[危険運転致死傷罪について]2012.10.1

 ちょっと前のニュースになるが、今年の4月、京都府亀岡市で、居眠り運転により、集団登校中の小学生の列に自動車を突っ込ませ、3人を死亡、7人に傷害を負わせた18歳の少年に対し、京都地方検察庁は、危険運転致死傷罪での起訴をあきらめ、自動車運転過失致死傷と道交法違反(無免許運転)の罪の併合罪で起訴するという判断をしたというのがあった。この地検の判断に対して、多くの人から、なぜ危険運転致死傷罪で起訴できないのかという批判が集中した。

 危険運転致死傷罪の条文は、下記参照いただきたいが、私も刑法の条文を久しぶりに引いてみて驚いたことに、同罪は第27章の傷害の罪の中に規定されているのである。傷害罪、暴行罪というのはいわゆる故意犯である。人を傷つける意思を以って、人を傷つけるのであり、人を傷つけないようにする注意をしなかったがために、人を誤って傷つけてしまったという“過失犯”としての自動車運転過失致死傷罪とは、犯罪の質において全く異なるものである。故意犯と過失犯との質の差は、それらの法定刑の差に顕れている。自動車運転過失致死傷罪の法定刑は、7年以下の懲役・禁固、100万円以下の罰金となっており、かたや、危険運転致死傷罪の法定刑(人を死亡させた場合)は、1年以上の有期懲役(現在では20年まで伸長しており、併合罪処理されるとマックス30年にもなりうる。)と雲泥の差である。確かに、被害者の処罰感情としては、何故危険運転致死傷罪で起訴できないのかと思われるのももっともなところである。

 検察が、亀岡のケースで、危険運転致死傷罪による起訴をためらっているのは、刑法208条の2に「その(自動車の)進行を制御する技能を有しないで自動車を走行させ」、すなわち未熟運転とは言えないのではないか、当該被疑者は、免許を持っていないものの、本件事故を起こす前にコンビニ・スタンドにバックでうまく車を入れていたから、未熟とは言えないと躊躇しているとのことが報道されている。しかしながら、これはあまりに危険運転致死傷罪の立法趣旨を考えない(羹に懲りて鱠を吹く)検察庁の役人的な発想であろう。上述した通り、危険運転致死傷罪が故意犯としての暴行・傷害罪の中に規定されたということは、自動車を運転することで他人の生命身体に対して危害を加えることを明確に認識しているか、少なくとも危険な運転をすることにより他人に死傷の危害を加えても仕方ないという未必の故意が必要ということになろう。とすると、多少バックで車庫入れができるだけの運転技能があったとしても、自動車教習所にも行かず、運転免許試験をも受けず、道路標識の意味もあやふやで、運転ルールも正式に習ったことがない状態で運転すること自体が、他人の生命身体に対する脅威であり、「未熟運転」として認定されるべきであろう。そうだからこそ、亀岡の事件においても、危険運転致死傷罪で起訴すべきという署名活動に、21万人が署名をしたのである。それが一般人の法感情というものであり、本来、刑罰法規と一般人の法感情が一致すべきであり、一致しないとするとそれは法が間違っているのだから法律改正などで対応していくべきなのである。このあたり、京都地検も、自分たち検察官としての判断のずれなのか、法律そのもののずれなのかをよく認識すべきであり、法の間違いについては立法に対し改正を働きかけるべきものと考える。

PS 上記コラムを執筆後、次のような記事がありました。
http://sankei.jp.msn.com/affairs/news/120904/trl12090411370000-n1.htm

(危険運転致死傷)
第208条の2 アルコール又は薬物の影響により正常な運転が困難な状態で自動車を走行させ、よって、人を負傷させた者は15年以下の懲役に処し、人を死亡させた者は1年以上の有期懲役に処する。その進行を制御することが困難な高速度で、又はその進行を制御する技能を有しないで自動車を走行させ、よって人を死傷させた者も、同様とする。

(業務上過失致死傷等)
第二百十一条  業務上必要な注意を怠り、よって人を死傷させた者は、五年以下の懲役若しくは禁錮又は百万円以下の罰金に処する。重大な過失により人を死傷させた者も、同様とする。
2 自動車の運転上必要な注意を怠り、よって人を死傷させた者は、七年以下の懲役若しくは禁錮又は百万円以下の罰金に処する。ただし、その傷害が軽いときは、情状により、その刑を免除することができる。

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