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最近の解決事例紹介(企業法務編)− 株価算定事件 2013.12.15

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 この度、当事務所の依頼者が保有するA社株式についての株価算定に関わる非訟事件が和解で解決しました。どのような内容かというと、依頼者がA社の普通株を40%保有していたのですが、当該株式を第三者に売却して投資回収を図ろうとしましたところ、A社は株式の譲渡制限会社であったため、A社取締役会に、依頼者から第三者への譲渡承認を請求したにもかかわらず拒否され、A社自身が買い取ることとなりました。そこで、依頼者・A社両者間で株式の買取価格について協議をしたものの、両者の主張する価格に大きなギャップがあったため、任意交渉は物別れに終わり、両者から裁判所に対して、株価算定の申立てをなしたという事件です。

 私の依頼者が主張していた株価は、一株当たりの純資産額に株式数を掛けた金額(すなわち簿価ですが)の約2倍の金額でした。すなわち、ゴーイング・コンサーンとしての会社の評価に適するといわれるDCF法により求められた価格を50%、類似会社の株価を参酌する株価倍率法により求められた価格を50%としてミックスして求められた価格に、かつ、発行済み株式総数の40%にあたるブロックトレーディング(当該株式をA社が買い取ることで、経営陣が株主総会の特別決議まで支配できることとなり、実質的に支配権移転が生じることとなる案件です。)ですので、支配プレミアムが生じるであろうことを考慮した金額であり、適正価格といえるものです。DCF法についても、これまでのA社の業績を複数年度に渡りピックアップし、適切な成長率を掛けて求めた数字でした。株価倍率法についても、A社の業務内容に類似する会社を適切に採取して算出したものでした。

 しかしながら、A社の主張する買取価格は、簿価の20%にも満たない低廉な価格でした。なぜ、そのような低廉な価格になるかというと、A社の私的鑑定によれば、同社株式の算定方法においては、配当還元法により求めた価格を80%、純資産法により求めた価格を10%、収益還元法により求めた価格を10%というミックスにより算出したからでした。
 しかしながら、配当というのは、譲渡制限会社においては、経営陣により恣意的に決められることが多く、A社においても、経営陣が普通決議を支配できるほど株式を保有しており、まずは、利益の中から役員報酬を大きく控除し、その上で株主への配当に回すということをしていましたので、配当性向は非常に低いものでした。このような恣意性を排除できない配当還元法というのは、到底、採用されるべきではありません。修正配当還元法というのもありますが、それすら行われておりませんでした。また、純資産法、すなわち簿価での株価算定ですが、理屈から言えば、簿価は解散価値ですので、ゴーイング・コンサーンとしての会社の価値としては採用されるべきものでありませんし、何よりも、A社の保有する不動産などの資産を洗い替え評価もしていない簿価ですので、当方の理屈としてあいません。なお、収益還元法については、A社は非常に見通しが暗い業績予想をもとにして算定したものでした。

 株価算定を申し立てたのは、東京地裁民事8部、いわゆる商事部でした。両者の主張する株価のギャップが大きいので、裁判所としても裁判所の選任する鑑定人により、通常は公認会計士ですが、裁判所鑑定に付するということになりました。鑑定人とのインタビューなど鑑定作業が終了しまして、鑑定書が提出されてきました。さすがに、A社の主張する鑑定手法について、配当還元法、純資産法とも、当方の主張理由と同様の理由にて排除されていました。また、収益還元法によるA社の算定額についても否定していました。すなわち、A社としては、株価を低くするために当然(?)見通しが暗い業績予想を出してくるのであり、恣意的な数字になってしまうというのが理由でした。それはそれで、配当還元法と同様に納得のいく理屈だと思います。
 もっとも、裁判所鑑定人は、A社と同様に会社の業績に着目した株価算定アプローチである収益還元法により、A社の株式を算定してきました。すなわち、収益還元法というのは、当該会社の利益水準、例えば、過去の実績において通期で何億円の純利益とか、その具体的数字を還元利回りにより割り戻して求めるという手法です。
 確かに、A社の恣意的な将来の業績予想よりは客観性があるかもしれませんが、裁判所鑑定人の採用した利益水準が、鑑定対象日の直近期の一期のみを採用しており、非常に低い額だったのが問題だったのです。その期はまだまだリーマン・ショックの影響が色濃く、その前の10年の平均利益額に到底及ばない低い額だったため、還元利回りで割り戻した額は、なんと簿価の2分の1にも満たない金額となりました。収益還元法の欠点は、採取する利益水準を一つの期の数字などで決め打ちしてしまうと、実態とかけ離れた数字になってしまう恐れがあるということで、まさに今回の鑑定はその通りとなってしまっていました。当該裁判所鑑定人は、自身の著書でも、収益還元法を採用する場合、利益水準は単期だけではなく複数期の数字を採用すべきと書かれているにもかかわらず、何故か理由は明らかにされず直近期の単期の利益水準しか採用されなかったもので、恣意性が免れないものでした。
 さらに、裁判所鑑定人は、株価倍率法を採用するとのことで、そこまではよかったのですが、比較対象会社が、A社の業務内容とはかけ離れた会社ばかり採用しており、これまた恣意性が免れないものでした。また、DCF法については、その元になった事業計画が、景気循環等の経営環境の変化を考慮していないとの理由で採用されませんでした。

 ということで、裁判所としては、この鑑定結果に基づいて和解を勧めてきまして、依頼者として納得いかないところはありましたが(A社も納得いかないとは言っていましたが)、最終的には両者がそれぞれ譲歩して当該鑑定金額で和解成立ということになりました(厳密には非訟事件ですから、訴訟における和解とはちょっと違いますが)。当方としては、当該裁判所鑑定については、試合に勝って勝負に負けた感(逆ですかね?)があり、和解となっても後味が悪いものとなりました。
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