東京で不動産や法律相談に関する弁護士へのご相談は神田元経営法律事務所へ
神田元経営法律事務所 TEL:03-6418-8011
平日 9:00〜17:00
お問い合わせ

企業法務全般

TOP > [企業法務全般]企業法務に関するご相談は神田元経営法律事務所へ

業務内容

神田元経営法律事務所
〒107-0062
東京都港区南青山5丁目11番14号
H&M南青山EAST301号室
地図はこちら

最近の解決事例紹介(企業法務編)− 東京電力に対する損害賠償請求(収益に関する請求) 2013.10.15

シェア
 平成24年10月15日付で「東京電力に対する損害賠償請求(個人の請求)」という事例(*)を紹介しましたが、今度は、その事例の被害者の方が経営する会社に関する損害について、原子力紛争解決センター(以下「原紛センター」といいます)でのADR手続において和解が成立しましたのでご紹介します。

 前回登場したI社長は、福島第一原発からわずか5キロの甲町において会社(「A社」とします。)を経営していました(同社所在地は、今回、「警戒区域」から「帰宅困難区域」に指定されました。)。前回お話しましたとおり、I社長一家は、着の身着のままで甲町を脱出し、乙市まで避難され、今でも一家で避難生活を余儀なくされておられます。I社長の経営されていた会社は、原発事故まで堅実かつ相当の利益を計上していましたが、当然のことながら、甲町での事業を全て置いたまま避難されてきましたので、売り上げはゼロとなってしまいました。前回もお書きしましたが、I社長は不屈の精神の努力家で、乙市において甲町で行っていた事業と同様の事業を再開し、プラス新たな事業をも始め、乙市での売上、収益とも甲町での原発事故までの水準を超えるほどまでに拡大させました。

 さて、当事務所が構築した賠償請求のスキームは、A社が甲町で原発事故前までに計上していた売上・収益実績に基づいて、帰宅困難地域ですので、その6年分の利益(損失)総額を損害として立てたものです。しかしながら、まずこの計算で東京電力に直接請求をしたところ、なんとゼロ回答でした。東京電力の言い分は、「原発事故により甲町でA社が被った損害については誠に申し訳なく思いますが、I社長が有能な経営者で、乙市でA社事業を再開され、原発事故以前よりも売上・利益を上げられているので、損害は無いものといえる。従い、お支払する賠償金はない。」というものでした。
 この回答に個人の損害賠償で煮え湯を飲まされたI社長は、さらに怒りを増幅されておられました。I社長が言われるには、「乙市には、原発事故で避難してきた人々が沢山いるが、自分で働いて稼ごうという前向きな姿勢をもたない人もいる。なぜならば、働けば、働いた分が、東京電力からの賠償金から控除されてしまうので、控除されるくらいならば中途半端に働くと損だということで、乙市のパチンコ屋に朝から入りびたっているものもいる。乙市の昔からの市民は非常に苦々しく見ており、避難民との間の関係もよくない。私のように。乙市で事業を再開しようとしても、すべて一から始めなくてはならず,徒手徒拳で頑張っている。簡単に儲けているのではない。」ということでした。

 そこで、原紛センターにADR手続を申し立てましたが、甲町での損害についての主張に相当工夫をしました。
 すなわち、まず、同じA社での経理としてみると、原発事故前よりも頑張って収益を上げれば損害はないという発想になりそうだが、この発想自体が間違っている。もし、I社長が乙市において、新会社を設立し、新A社として事業を開始しておれば、かような問題は起こらなかったのであって(もちろん、I社長は、乙市での事業再開に全身全霊没頭していたので、そのような発想を考える時間もなかったわけですが)、そもそもA社の事業として「甲町における事業部門」と「乙市における事業部門」と分けて考えるべきであり、原発事故により、「甲町における事業部門」が廃業となり、新たに「乙市における事業部門」が設立されたと考えるべきだ。例えば、東京に本社を持つ全国展開する会社がたまたま福島県に支社を有しており、原発事故で福島支社を閉鎖したとしても、本社や、他の支社での収益がある(かつ福島支社の損害を十分カバーできる)からといって、福島支社の損害を賠償しなくてもいいということにはならないということを綿々と主張しました。

 さすがに、原紛センターの方も、東電側の論理構成に無理があると思われたのか、ほぼ当方の主張が認められる形で、和解案が提示され、I社長にもご理解をいただき、今回和解が成立するに至った次第です。ただ、原紛センターは、和解案についてその法律構成を明らかにしたわけではありませんから、当事務所の別事業部門別会計構成ではなく、A社の「特別の努力」による売上・収益向上として構成したのかもしれません。いずれにしても、実態を踏まえた和解が成立したものと評価したいと思います。

* http://www.kanda-law.jp/zenpan_r2.html
シェア