東京で不動産や法律相談に関する弁護士へのご相談は神田元経営法律事務所へ
神田元経営法律事務所 TEL:03-6418-8011
平日 9:00〜17:00
お問い合わせ

企業法務全般

TOP > [企業法務全般]企業法務に関するご相談は神田元経営法律事務所へ

業務内容

神田元経営法律事務所
〒107-0062
東京都港区南青山5丁目11番14号
H&M南青山EAST301号室
地図はこちら

最近の解決事例紹介(企業法務編)− 貸金返還請求と消滅時効 2013.9.17

シェア
 今回は、東京地裁で和解が成立した貸金返還訴訟について、ご紹介します。
 事件の詳細はこのようなものです。当事務所の依頼者は、東京北部で大手チェーンのコンビニを経営されている方です(以後、Aさんと言います。)。Aさんは、従前よりコンビニ経営の経験があり、自らも店に立ち、努力を重ねてコンビニ事業において成功されてきました。新たに現在のコンビニを開店するにあたって、Aさんは当初自分一人の事業として行うつもりでいましたが、知人Bさん・Cさんから、「新たにコンビニを開くのであれば、コンビニ経営に興味を持っているDさんを紹介するから、一緒にやってはどうか。」と勧められました。Dさんも出資するということでしたので、Aさん、Dさんそれぞれ800万円ずつ拠出して、現在のコンビニを開店することとなりました。
 しかしながら、開店して間もなく、共同出資者のDさんはストレスもあってか、体を壊してしまい、Aさんに連絡もせずにいなくなってしまいました。Dさんには店長としての重責を負ってもらっていたので、Aさんは、Dさん失踪後の後始末にてんてこ舞いでしたが、がんばってコンビニ経営を立て直しました。ところが、後日、Dさんを紹介したBさん・Cさんから、「貸した800万円を返してほしい。」という請求をされてしまいました。Aさんとしては、あくまでDさんから出資金として拠出してもらった800万円であり、Bさん・Cさんから借りたものではありませんから、「Bさん・Cさんには弁済することはできない」と拒否をしたら、簡易裁判所に調停を申し立てられました。調停手続の中で、当事務所が代理人として関与することになったのですが、結局、Dさんが出てこない手続では和解もできないということで、調停は不成立となり、地裁への訴訟が提起されることとなりました。

 訴訟では、まずは“B・CからAへの貸金”なのか、それとも“DからAへの出資金”なのかが当然争点になりましたが、もう一つ争点となったのは、仮にB・CからAさんに対する貸金だという認定がされても、訴訟が提起されたのは、(誰からの交付かはともかく)Aさんが800万円を受け取ってからすでに5年以上経過してからであり、貸金債務は時効消滅しているのではないかということでした。

 ここで、消滅時効の整理をしておきます。ご承知の通り、「債権は長期間にわたり権利行使をしないと、権利行使できなくなる」というのが消滅時効の制度です。その趣旨は、よく“権利の上に眠る者を法は保護しない”という言葉で表されたりします。
 それでは、何時から消滅時効が成立する期間が起算されるかというと、これは民法166条1項に「消滅時効は、権利を行使することができる時から進行する。」と書かれていますので、弁済時期の定められている貸金債務などは、通常、その弁済期日の翌日が起算点となります(例えば、平成25年9月1日に貸し付けても、弁済期を12月1日と決めていれば、通常、初日不算入というルールが適用された上で、12月1日の翌日である12月2日から消滅時効の起算が始まるのです。)。しかしながら、時効は、中断させることも可能です。民法147条では、@裁判上の請求、A差押え、仮差押え、仮処分、B債務の承認という時効中断事由が定められています。

 本事件についてみますと、Bさん・Cさんが主張する800万円の貸金債権は、商人間の債権ですから商事債権として認定され、消滅時効の期間は5年ということになります。
 Bさん・Cさんは、800万円を交付したと主張する日から5年以内に簡易裁判所に調停を申し立てましたので、民法147条により、「裁判上の請求」をなしたことになり、一旦、調停申立時点で時効が中断したことになります。しかしながら、この調停は不成立に終わったことから、時効中断の効力は、調停申立時に遡って喪失することとなります(そのような事態に備えて、民法151条は、「調停不成立の後1か月以内に本訴を提起しなければならない」と救済策を規定しています。)。しかしながら、Bさん・Cさんは、調停不成立から1か月経っても何もしてきませんでした。ということは、調停申立時に遡って、時効中断の効力は喪失してしまったことになります。こちらから何か言う必要がありませんので、ほっておいたら、800万円をAさんに交付してから約5年3か月後に貸金返還訴訟を提起してきたのです。

 Aさんの側として当方は、訴訟において、当然時効消滅を主張しました。しかしながら問題となったのは、消滅時効の起算点が何時なのかでした。
 AさんとBさん・Cさんとの間で弁済期は何年何月何日であるという取り決めをしておれば、通常は、その日の翌日が時効の起算点となるのですが、Aさんとしては貸金として認識していないので、弁済期についての取り決めを(Dさんとの関係でも)当然ながらしていません。ということは、「期限の定めのない債務」となるわけですが、一般的に、期限の定めない債務の場合、“債権の成立した時点”が時効の起算点となります。というのも、その時点から債権者としては権利行使が可能だからということです。とすれば、期限の定めのない貸金債務でも、金銭を貸し付けた日から消滅時効が起算されるとも考えられるのですが、判例・学説は分かれています。
 貸金債務については、期限の定めがない場合は、相当期間を定めて催告し、かつ、その相当期間の経過後から、履行遅滞(債務不履行)となるのですが、そうだとすると、消滅時効の起算も、金銭を交付した時期ではなく、相当期間経過時であるという考え方もあるのです。驚くことに、こんな世の中によくある事案にもかかわらず、最高裁判例がなく、金銭交付時なのか、相当期間経過時なのかがはっきりしません。

 今までの下級審の裁判例の中で、「元が売掛金債権だったものが、準消費貸借により、貸金債権となった場合は、その売掛金の回収サイクルに基づき、消滅時効の起算点が決められる。」というのがあります。すなわち、売掛金が当月締め翌月末払いという取引条件が生じたというであれば、翌月の支払日が「(債権成立後)相当期間が経過した日」として時効の起算点として認定されるべしという判旨です。
 この判旨からすれば、本件では、コンビニ事業の開始のためになされた貸金については、「(返還を求めることができる)相当期間が経過する日はいつか」という観点から起算点を認定することになり、コンビニ事業が軌道に乗ったとき=相当期間が経過した日、を時効の起算点とするというような認定がされたかもしれません。そうすると、本件では、800万円の交付を受けてから5年3か月が経過していますから、例えば、相当期間が4か月であると認定されてしまうと、5年間という時効期間も満了していない(1か月足りないですね)ことになり、当方の消滅時効の主張は認められないとの結論となったことでしょう。
 しかし、本件では、和解が成立したため、この争点に関する裁判所の判断を聞くことができないまま事件終了となりました。裁判官からは、「Aさんの時効消滅のご主張はどうでしょうね。難しいのではないですか。」とは言われていましたが。
シェア