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最近の解決事例紹介(企業法務編)− 未払残業代請求事件 2015.12.15

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 ある会社の社長から相談を受け、退職した従業員から在職中の未払残業代を支払えという訴訟を起こされたというものでした。その会社は、24時間体制でサービスを提供する会社で、労働者としては夜間にも勤務する形態があるというものです。原告も一人ではなく、複数人からの請求ということで、請求額は結構な数字に上っていました。未払残業代請求については、労働審判でも提起されることはありますが、このケースでは訴訟提起ということで、それなりに時間がかかるということを社長に説明し、早速訴状を精査しましたところ、次の点が分かってきました。まず、原告らが退職してから1年後に未払残業代を請求してきたこと、また未払と主張する労働時間の中に、夜間に出動待ちする休憩時間が含まれていたことでした。

 退職金を除く賃金債権というのは、労働基準法においては、消滅時効が2年と定められています(退職金債権は5年が消滅時効です。)。残業代についてもこの賃金債権に含まれますので、2年で時効消滅することとなり、本件で言えば、原告ら請求の未払残業代のうち、既に1年分は時効で消滅していることになります。そこで、訴訟手続において、当方としては、まず1年分についての時効消滅を抗弁として主張しました。この抗弁が認められれば、請求額が約半分になります。この当方からの抗弁に対しては、原告らから予備的な主張がなされました。すなわち、万が一賃金債権として2年の消滅時効にかかるとしても、未払い賃金を支払わないことは、民法上の不法行為であるから、同額の損害賠償金を支払えというものです。不法行為債権であれば、3年で時効消滅するので、今回の原告らの請求金額がほぼカバーされてしまうというものでした。

 また、夜間に出動待ちする休憩時間については、原告らは出動命令が出たら直ちに出動しなければならないのだから、休憩時間とは言えず、労働時間であるという主張をしました。この点、当方からは、出動命令といっても、夜勤の間に何回も出るものではなく、全く出動命令がない日もあるし、出動命令が出ないときは、会社内の休憩所で寝ていても、外出して食事をしたりしても全然構わないという体制であり、出動命令が出れば、その時点から当然労働時間としての賃金が発生するものであるから、通常の形態の休憩時間と何ら変わるものがないという反論をしました。実際、携帯電話を携行しておれば、どこででも出動命令を受けることができ、どこか一か所に待機しなければならないというものではありませんでした。

 審理が進み、双方が主張立証をひと段落したところで、裁判所から原被告それぞれに和解の提示がありました。当方に対して、裁判所からは、消滅時効の点については、なかなか不法行為が成立するのは難しいのではないか、すなわち1年分の賃金債権は時効消滅してしまっているのではないかという心証を裁判所として持っているが、逆に、夜間の休憩時間については、全く会社の指揮命令から解放されてしまっているとまでは言えないのではないか、と。しかしながら、昼間の休憩のように1時間程度は食事などの便宜からも認められるのではないかとのことから、夜間休憩時間8時間のうち1時間を除き労働時間制が認められるのではとの心証を持っているということで、2年分の残業代請求のうち1年分が控除され、さらに休憩時間1時間を控除した残りの請求について未払残業代として和解金として支払うのではどうかと提案されました。
 依頼者の社長とも検討した結果、この和解案を蹴った場合でも、多分裁判所としては心証を相当程度開示しているので、和解案と同額の判決が出る可能性も高いと判断し、それであれば分割払いとして和解を成立させるのが妥当であろうということで、裁判所和解案をのむこととなりました。原告らも、裁判所から相当心証開示・説得があったようで、和解期日においては、裁判所和解案で和解が成立しました。なかなか、夜間の休憩時間については、種々工夫をしないと労働時間として算入されてしまうという点が今後の就業規則作成・見直しのための参考になるものでしたが、一方、賃金債権の消滅時効もなかなか請求する側にとっては厳しいとものだということも参考になりました。なお、本訴訟については、依頼者会社の社会保険労務士にも「補佐人」として入ってもらい、口頭弁論期日、弁論準備期日当にも同席、労務のプロとして助けてもらいながら取り進めることができました。ちょうど本事件が起きた時期に、社会保険労務士法が改正されて、社会保険労務士も労働事件については、法廷に出廷し、陳述できるということになったもので、今後益々同制度を活用していく意義があることも勉強になった次第です。
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