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最近の解決事例紹介 − 東京電力に対する損害賠償請求(個人の請求) 2012.10.15

 前回、福島第一原発事故により福島県所在の観光業者が受けた風評被害損害賠償について東京電力との間で和解が成立したことを紹介しましたが(http://www.kanda-law.jp/zenpan_r1.html)、その後、全くの別件ですが、事故発生まで第一原発周辺の警戒区域内に居住し、事故発生後、A市まで避難して同市にて避難生活を余儀なくされている個人の方の損害賠償についてもこの度和解が成立しました。

 その方は、警戒区域内で会社を経営しておられました(仮にI社長とお呼びします)。I社長は、事故発生後、着の身着のままでA市まで避難され、何と不屈の精神で同業をA市において再開し、頑張って自分個人の生活も、会社の事業も立て直しを図っておられる努力家です。まずは個人に関する損害賠償を東京電力に請求すべく、当初は自分で東京電力と交渉していたのですが、東電担当者が誠に融通が効かず、木を鼻でくくったような対応を取るので、全く賠償交渉が進んでいませんでした。そこでI社長は、税理士と相談し、個人の生活、会社の再建に時間を取られる上に、とても前向きな話ができない東電との交渉を自分一人で進めていくことはできないとのことで、小職事務所にご相談に来られたというのが本件を受任した経緯です。

 さて、I社長が個人として受けた損害の内訳は、①役員としての収入の減少、②A市まで避難したことに関する諸費用の求償、③警戒区域内にある自宅等の財物の毀損というものでした。

 まず、①につきましては、I社長は相当怒っていました。というのも、原発事故の数ヵ月前に、当該会社の取締役会・株主総会において役員報酬を増額していましたが、東電は、増額前である平成22年分の税務申告書にて申告している役員報酬しか支払えないというのです。偶々、平成22年の税務申告の後、震災・原発事故の前に役員報酬を増額改定していたがために、増額分が否定されるというのは何か賠償を請求する側が数字を操作していることを疑っているようで(すなわち性悪説に立っているようで)いい気持ちがしないですね。当該会社はきちんと取締役会・株主総会決議をして、議事録を作成しているにも拘らずですから。いくら東電の担当者に説明をしても莞爾と笑ってバッサリと切るという感じだったとのことです。

 次に、②につきましては、さらにI社長の怒りが増していました。I社長一家は、警戒区域からほうほうの体で逃げ出してきたのですが、初日は泊まるところもないので、街道沿いのラブホテルに泊まったのですが、その費用の求償について、東電担当者は「領収証がないものは認められません。」との一言で、被害者の感情を逆なでする、まさに木を鼻でくくったような対応とのことでした。

 小職事務所に相談にこられたとき、I社長は、既に原子力損害賠償紛争解決センター(原紛センター)にADR(裁判外紛争処理)による和解を申し立てていましたので、小職が代理人としてつくことで、当該和解手続に参加することとなりました。当該和解手続においても東電側は上述①、②の請求に対し、消極的でしたが、お互いの主張を尽くした後、最後は、東電側も「原紛センターの和解案を尊重します。」とのことで、センターに和解案を出してもらうこととなりました。出てきた和解案を見ますと、①及び②に関する当方の主張金額がほぼ全面的に認められていて、やはりセンターの方も、東電の融通の利かない画一的処理に対しては批判的なのだなと思った次第です。

 しかしながら、③の自宅等の不動産・重要な動産に対する補償は今回和解案が提示されないことになりました。というのも、I社長が居住されていた警戒区域については、まだ財物の補償基準について経済産業省と各市町村との調整ができていなかったためです。これは小職の推測ですが、やはり、警戒区域に本当に戻ることができるのか、何十年も先の帰郷というのであれば、それは全損と同じ扱いをしなければならないのではないか、というあたりでもめているのではないかと思う次第です。

 いずれにしても、双方ともセンターから和解案を持ち帰り、それぞれの当事者の了承を取った上で、和解が成立ということになりました。1件目の依頼者、今回の依頼者とも小職を代理人として、原紛センターの和解手続における東電との和解が成立したことに(当然100%ではありませんが)ある程度満足して頂いたものと思っています。何よりも、東電の担当者と不毛な交渉をして、精神的負担の少なくない避難生活で、さらに精神的なダメージを受けるのは耐え難い負担です。弁護士を盾とすることで得られた精神衛生上のメリットも大きかったのではないでしょうか。東電も原紛センターでのADR手続における和解については積極的であり、また原紛センターも結構被害者の実情に配慮した取り進めをしてくれることからも、原発被害にあわれている方々には、弁護士を立てて、ADRを活用することで賠償を勝ち取って行くという方法があることを、早くかつ広く知っていただきたいと、切に願っております。