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最近の解決事例紹介(企業法務編)− 被告の所在不明と公示送達 2014.6.15

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 ある依頼者から、依頼者の保有する不動産に後順位の抵当権がついているが、当該抵当権者はどうやら夜逃げしてしまい行方が分からず、何よりも当該抵当権の被担保債権が時効消滅期間を十分経過しているので、この後順位抵当権の設定登記を抹消したいとの相談を受けました。
 抵当権者の名称を聞いてみると、結構名の通った会社で、よく街中のマンションで、「○○(その会社の名称)マンションどこそこ」というのを見かけるという、私も名前は知っていた会社でした。そこそこの会社であれば、債権管理はきちんとしているので、「債権を時効消滅にかけるような業務怠慢はないのでは」と思い、依頼者からいただいた資料をよく検討したのですが、やはりどうも被担保債権は時効消滅しているようで、それならば抵当権設定登記も空登記となり、登記の抹消請求ができるので訴えを提起しましょうということになりました。

 しかしながら、訴訟というのは被告側に訴状が到達しなければ成立しませんので、判決を出すこともできません。そうすると、行方不明の相手方に対して訴訟を提起するにはどうしたらいいのかということになりますが、民法・民事訴訟法はそのようなことに備えて公示送達という制度を用意しています。すなわち、当事者の住所、居所、その他送達すべき場所(就業場所等)が知れない場合には、訴訟を申し立てる裁判所に対し、被告となる当事者への公示送達を申し立て、一定の期間裁判所に掲示されて、その期間の経過により相手方当事者に訴状が送達されたものと擬制することによって、訴訟が成立したとするものです。
 裁判所の前を通りますと、ガラスのケースがあって、その中に日焼けして色が多少茶色くなったり、そり曲がったりしている裁判所のハンコが押された書類が張り出されているのを見たことがありませんでしょうか。よくあのガラスケースの中を見るには、裁判所の人に言わなければならないのですかと聞かれますが、通常は開錠していて誰もが見ることができるのですね。誰もが見ることができる状態を何日か継続することにより、行方不明となった当事者へも訴状などの書類が到達したと法律的にしてしまうのです。

 かように公示することによって送達したことにしますので、悪いことを考える人が出てきます。すなわち、相手方の所在が分かっているにもかかわらず、住民票の所在地などに住んでいないことを悪用して、公示送達を申し立て、そうすると普通の人は裁判所に日参する人はあまりおらず、ガラスケースの中を日常的に確認する人はいないので、公示送達を申し立てられた相手方は九分九厘裁判の日に欠席するでしょうから、欠席判決として原告の申し立てた通りの判決がなされることとなります。
 このような悪用を防止するために、公示送達が申し立てられた場合、裁判所は厳しく相手方の所在について調べて報告することを申立者に求めます。すなわち、公示送達の申立書のほかに、送達ができないことを証明するための現地および就業場所についての調査報告書を提出しなければならないというものです。ということで、申立者、通常は原告の代理人の弁護士が、被告となる相手方の住所地、就業場所などを訪ね歩いて、実際に当該場所に相手方がいないことを報告しなければならないのです。

 今回は、相手方が法人であったので、登記簿上の法人の本店所在地、そして法人登記には代表取締役の住所も記載されていますので代表者の住所地についても調査してきました。
 まず、法人の本店所在地に出向いてみましたが、その住所には雑居ビルがあり、各階のテナントが一覧の看板として出ているのでそれを確かめたのですが、全く相手方会社の表記はありません。念には念を入れて両隣のビルのテナントも確かめてみたのですが、全く見当たりませんでした。
 ということで、次にその足で相手方会社の代表取締役の商業登記上の住所に行ってみました。とある私鉄沿線の駅からほど近いところがその住所あたりなのですが、なぜ“あたり”かというと、当該住所地に行ってみてもその住所がないのです。すなわち○○市○○×丁目×番×号となっているのですが、×番△号、×番□号があっても×番×号がないのです。△号、□号の家にもインターホンを鳴らして聞いてみたのですが、「×号という住所は昔から聞かないねえ。○○さんという人も知らないねえ。」という説明でした。タイミングよく(?)郵便配達の人が配達中でしたので捕まえて×号について聞いてみたのですが、「私は相当長期間この地域の配達をしていますが、×号という住所はありません。」と断言されました。ということで、相手方会社の代表取締役は、最初から、架空の住所を自宅住所として会社登記していたということにでもなるのでしょうか。会社が夜逃げするという事態を予知していたのでしょうか、謎です。

 かように、会社登記における住所表記というのは、登記官も実態調査までしないようですから(その点、不動産登記の方は、さすがに登記官も実地調査した上で厳密に登記手続きを進めているようです。)、かような架空の住所表記も出てきます。
 以前も、浜松町の某大学近くの住所で本店所在地登記されていた会社を実際に尋ねて行ったことがあるのですが、そこには1階にドラッグストアのビルがあり、これまたテナント一覧ボードには表記がなく、そこでドラッグストアの店長らしき人に、「○○番○○号というのはこのビルですよね。○○という会社を知りませんか。」と尋ねたら、「聞いたことない会社ですね。」というので、「失礼ですが、何年前からこのビルに入っておられますか。」と聞いたら、「失礼だ。私がこのビルのオーナーだから知らないわけない。」と言われてしまい、ほうほうのてい体で帰ってきたということもありました。
 このようなことからすれば、ある会社についての商業登記を謄本やインターネットの登記情報サービスで確認したら、やはり、“実際にそこにその会社はあるのか”というところまでは調べておいた方がよろしいかと思います。
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