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最近の解決事例紹介(企業法務編)− 未払い残業代請求労働審判 2014.1.1

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 依頼者の経営する会社の現役従業員から未払い残業代の支払について、労働審判を申し立てられたとの相談を受けました。当該会社における自動車運転業務に従事する従業員の人が申立人です。裁判所の労働審判手続についての説明をそのまま引用すると、「労働審判手続は、解雇や給料の不払など、事業主と個々の労働者との間の労働関係に関するトラブルを、そのトラブルの実情に即し、迅速、適正かつ実効的に解決することを目的としています。」と説明されています。
 労働審判事件で注意しなければならないのは、通常の訴訟と違って、期日は3回までと決まっており、第3回目の期日は、事実上審理を行わず、審判の言い渡しか、調停の成立かなど何らか判断を示すにとどまる期日ですので、事実上2回の期日で審理が終了してしまいます。申し立てる側も未払い残業代の請求の消滅時効は2年ですので、請求を急ぐ必要ありますが、何といっても被申立人の側は、突然、申立書が舞い込み、だいたい申し立てから40日後までに第1回の審判期日が指定され、同期日の1週間前までに答弁書を裁判所に提出しなければならないという過酷なスケジュールを組まれるのです。ですから、労働審判の申立書が届いたら、ただちに顧問弁護士なり、懇意にしている弁護士に相談する必要があります。答弁書の提出期限は厳格であり、裁判所からも提出期限に間に合うかどうか五月蠅いほど確認されることとなります。なぜさほどに答弁書の提出について五月蠅いかという理由ですが、労働審判手続というのは、審判官(要は、裁判官)と労働審判員(通常、労働組合側と雇用者側から一人ずつ選任されます。)2名、合計3名で構成する労働審判委員会が審理を行うので、第1回の期日までに裁判官以外の労働審判員にも申立人、被申立人双方の主張、立証を把握してもらうためなのです。

 答弁書の作成については、特に未払い残業代では、先方主張の残業代計算が合っているかどうかの精査をしなくてはならず、相当手間がかかることもあり、弁護士だけでは期間内に対応できない可能性もあるので、労務のプロフェッショナルである社会保険労務士と組んで対応することも多くあります。特に、特定社会保険労務士は、紛争解決手続代理業務に通暁しているので、労働審判手続きにおいても重要な役割を果たしてくれます。今回も、何度も一緒に労働事件に対応をした特定社会保険労務士と組んで取り組むことにしました。

 当日は、依頼者会社の社長と、特定社労士と小職の3人で審判に臨みました。今回の労働審判事件で争点となったのは、@就業規則に昼間1時間の休憩が定められているが申立人としては実質15分程度しか休憩が取れていなかったので、その余の休憩時間が労働時間となると主張している点、A就業規則に夜間8時間の休憩時間が定められているが、申立人としては、緊急の出動があり、休憩として利用されていないので労働時間となるのではないかと主張している点、B就業規則に定められている出勤時間よりも前に申立人としては出勤しているので早出時間が労働時間になると主張している点でした。
 この点、被申立人側としては、@については、労働者に1時間の休憩時間を保証しており、何ら同時間中拘束していない、Aについては、夜間の休憩時間中は、仮眠室において仮眠が取れるようにしており、電話対応などは専属の係が行う体制をとり、万が一、緊急の出動が入った場合でもその出動以降は当然に労働時間として扱っているという対応をしていましたので、休憩時間としての性質を失うものではない、また、Bについては、そもそも早出出勤についての命令を会社としてしていないという反論をしました。

 第1回目の期日から、上述争点について、労働審判委員会から、申立人・被申立人双方それぞれ別個に審尋し、一段落したところで、早くも委員会からある程度の心証の開示がなされました。もちろん、明確に主張が通るとか通らないとかを言われるものではないので、審判委員の話から、どの程度当方としての主張が認められそうかを判断するということになりますが、今回は、争点Bについては、どうやらこちらの主張が通りそうで、また、@の点についても、下級審の裁判例において、実質15分しか当該労働者が休憩していなかったとしても、会社として拘束していないのであれば、休憩時間性が直ちに失われるものではないという判断がなされているケースもあり、この点も何とかこちらの言い分が通りそうな気がしましたが、Aの点については結構厳しいコメントを受け、休憩時間中、仮眠室で仮眠しているとはいえ、果たして完全に会社の指揮命令下から解放されているかの認定が必ずしも当方言い分通りではなさそうだという心証を受けました。下級審の判例では、大星ビル事件判決などが参照されました。

 そこで、いったん、申立人側と審尋の順番が変わった際に、審尋室の外で当方3人で、Aの点が先方有利に認められた場合の未払い残業代を至急試算し、ある程度の金額を把握したうえで、当方側の審尋になった際に、委員会に対して、「当方としては、○円までならば調停を受ける用意があるので、本日中に調停を成立させていただきたい。」と申し入れ、委員会も当方の意向を受け入れ、申立人側を説得し、最終的には第1回期日で調停を成立させることができました。やはり、労働審判が迅速な解決を目指す手続きであることからすれば、いたずらに期日を重ねることなく、調停が成立するのであれば、たとえ第1回期日であっても成立させるべきだと思う次第です。委員会から調停案として提示され、次回期日までに受諾するかどうかを考えてきてくださいとすると、申立人側も、被申立人側も一晩寝ることで考えが変わり、結局調停成立のチャンスがあったのに成立できなくなるというリスクがあると考える次第です。
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