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最近の解決事例紹介(企業法務編)− 東京電力に対する損害賠償請求 2012.9.14

 平成23年3月の東京電力福島第一原発の事故による損害賠償請求事件を受任しておりましたが、今般、原子力損害賠償紛争解決センターにおいて和解が成立する運びとなりました。原子力損害賠償紛争解決センターというと長ったらしいので、「原紛センター」と略しますが、原紛センターでの手続というのは、今回の東電の事故による被害を受けた人が、東電に対して損害賠償を請求するにあたり、(任意交渉では、東電側は自分たちの基準以上の妥協をしませんので)訴訟で行うよりも迅速かつ機動的に和解の成立を目指すという、いわば裁判所外の調停手続と言ったものです。英語では、ADR(Alternate Dispute Resolution)と言い、直訳すると選択的紛争解決ということになりますが、ようは裁判との選択的な位置づけというものです。実際の審理においては、仲介委員と称する簡易裁判所でいう調停委員の3人が(最近は単独仲介委員のケースが多いとのことです)、和解を進めていくことになります。この3人のことを国際仲裁などでもパネルと言いますので、以下、「パネル」としてお話しします。

 さて、当事務所は、被害者側の代理人として活動していましたが、本件はいわゆる風評被害による損害でした。福島県内の観光業ですが、現在の経営者がやり手の人で、原発事故までは、右肩上がりで売り上げを拡大してきたのが、原発事故でごたぶんに漏れず、福島県内の観光業は放射能汚染という風評被害により、売上が激減したというものです。そこで、原発事故による当該事業者の風評被害による逸失利益を損害として、東京電力に賠償を請求しました。任意交渉では、埒どころではなく、何も出てこないので直ちに原紛センターに紛争解決を申し立てたものです。

 原紛センターの口頭審理において争点となったのは、3つです。1つは、被害者会社の逸失利益を算定するにあたっての経費率についての考え方、2つ目は、原発事故がなかったならば成長が見込まれていたことについて損害として認めるか否か、3つ目は、被害者の損害のうち、純粋な地震による損害分(原子力事故以外の売上減少分)を控除するか否かの点です。

 (1つ目の点については、会計的なテクニカルな話になりますので割愛しますが、)2つ目の点については、上述した通り、原発事故がなければ、当該会社は経営者の手腕により、前年よりも売上が増加していたはずです。数字的な根拠としては、過去3年間の平均成長率は約9.5パーセントを示しており、とすれば、原発事故の前年の利益額に約9.5パーセントを掛けた金額が、実際に減少した金額に加えられて損害額となるのではないかというのが当方の主張でした。しかし、東電側は当然のことながら認めなかったので、パネルの判断を仰いだのですが、パネルとしても、気持ちはわかるがやはり過去約9.5パーセントで成長してきたとしても、今後もその数字ピッタリで成長するとは言えないのではないか、少なくとも立証できないのではないかということで、結局、成長分を損害として認めてくれませんでした。

 3つ目の争点ですが、純粋な地震による損害分については、マスコミでの報道で有名になったところですが、東電側は、期間に応じて20パーセントまたは10パーセントを控除するという極めてお役所的・硬直的な対応をしています。これで泣き寝入りをした人も相当いるかと思われます。本ADRでは、当方からは、一律ゼロパーセントを主張し、結論的には東電側主張の控除率を2分の1まで引き下げた和解案の提示を受けることとなりました。

 パネルから示された和解案を持ち帰り、依頼者とも時間を掛けて検討しました。ここで原紛センターの和解案を蹴った場合、訴訟に持ち込まざるを得ませんが、果たして訴訟に持ち込んだ場合に得られる損害額の上乗せの可能性と、訴訟に持ち込んだ場合の時間と費用とを総合考慮しなければならないのですが、なかなかプラスになるのか、マイナスになるのかは即答できない事案でしたが、最終的に和解案を受諾するという方向で原紛センターに回答することとなり、最終的に東電側も和解案を受諾するとの回答をしてきましたので和解が成立しました。

 今回の事案を通じて感じたことは、損害賠償交渉に臨むにあたり、東電側は被害者との任意交渉においては内部で定めた賠償基準から一歩も譲歩する気がなく、結局、原紛センターに持ち込まれた案件については、和解案が提示されればやむを得ず受諾をしていくというような、積極的に賠償案件を解決していくという姿勢ではないことです。他の案件でもよく聞くのは、被害者が単独で交渉しに行くと、東電側担当者は非常にフレンドリーに対応をするものの東電の内部基準以上の裁量を持っていないためか、泣いて馬謖を斬るのではなく、笑って馬謖を切るになり、被害者にとってはより被害感情を逆なでされるということが多いようです。

 弁護士側としては宣伝になるかもしれませんが、かようなお役所的対応する東電と直接に交渉するのは、精神的にも参ってしまう可能性がありますから、弁護士に委任して代理人交渉で進めて頂くのがよろしいのかと思います。もちろん、法的争点についての主張立証の専門性も評価してもらいたいとこですが。それから、もうひとつ、被害者の方にとって重要なこととして、今回の和解において弁護士費用につき損害額の3パーセント相当額が認容されたことです。すなわち、今回の原子力事故については、被害者にとっては何の落ち度もなく訴訟やADRを行わざるを得ないのですから、弁護士費用も本来加害者である東電が支払うべきという理論が適用されたものです。この弁護士費用は、本来の損害額を確定した後に別途算出されるものですから、被害者にとっては弁護士費用の負担をほとんどせずに交渉を進めることができ、その点でも弁護士に委任し、代理人交渉をすることの意義はあるものと思われます。

原子力損害賠償紛争解決センターの手引き