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最近の解決事例紹介(不動産編)− 住宅紛争審査会 2014.1.1

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 この度、私が紛争処理委員を務めた弁護士会の住宅紛争審査会の事件が終了しました。住宅紛争審査会というのは、「住宅の品質確保の促進等に関する法律」に基づき「評価住宅」と「保険付き住宅」について、その建設工事の請負契約または売買契約に関する紛争の処理を行う機関のことです。すなわち、各弁護士会に設けられた住宅紛争審査会において、裁判外の紛争処理(いわゆるADR)を行っているものです。私は、その住宅紛争審査会において裁判官役としての住宅紛争処理委員を務めており、今回の事件では、2名の弁護士と1名の一級建築士が委員に選任され合議体が構成されました。2名の弁護士のうち、建築紛争に経験豊かなベテラン弁護士が裁判長役に選任され、私は、裁判所で言えばいわば左陪席役でありました。ちなみに、評価住宅というのは、住宅品質確保法に基づく住宅性能表示制度を利用して建設住宅性能評価書が交付された住宅をいい、「保険付き住宅」とは、「特定住宅瑕疵担保責任の履行の確保等に関する法律」(住宅瑕疵担保履行法)による住宅瑕疵担保責任保険が付された新築住宅をいいます。

 守秘義務の問題もありますので、あまり事件の内容を詳しく述べられませんが、ある住宅施工業者が建売した「保険付き住宅」が不同沈下を起こしたので、買主が「売買契約」に基づく瑕疵担保責任を追及して、住宅紛争審査会において調停を求めたという事件です。調停期日は3回を重ねましたが、具体的な瑕疵についての調査なども行われず、結局、調停は不成立(不調と言います。)となり終了してしまいました。不調となった一番の理由は、申し立てられた相手方(被申請人と言います。)の住宅施工業者の言い分として、不同沈下を起こしている土地の近辺で造成・地盤改良工事を行った者がおり、その者を手続に参加させない限りには終局的な解決を得られないからというものでした。さらには、当該瑕疵住宅以外にも同地域において当該住宅施工業者が施工した建物があり、それら建物の買主からすでに裁判所の方に訴訟を提起されているので、そちらの方で一括して解決したいという意図もありました。

 住宅紛争審査会というのは、前述したとおり、裁判所以外の紛争処理機関ですので、迅速、専門的、柔軟に問題解決するという意味では非常に有効な制度だと思われるのですが、いかんせん、当事者が当該ADR手続では、紛争を解決したくないという意思がある場合には、不調とならざるを得ません。その点に、当事者が嫌だといっても公権的・終局的な判断をすることができる裁判所とは大きな違いがあるのです。ただ、裁判所で行われる調停手続も、裁判所という場所を借りて行っている当事者同士の任意の話し合いということから言えば、ADRとは法的な効果は同じだと言えます。裁判所で行われることで、当事者も緊張感を持って解決に向けた話し合いをするという事実上の効果はあるのかもしれませんが。労働事件では、労働審判手続というものがありますが、この制度も迅速・専門的・柔軟な解決を図ることを目的としつつ、審判に対して不服があれば、裁判所での訴訟に持ち込むことができるという意味ではADRに近いと言えますが、やはり、裁判所で、審判官が裁判官であるというところに紛争解決のカギがあるといえましょうか。正確な数字は把握していませんが、紛争解決率は、やはり住宅紛争審査会よりも、裁判所での調停手続や、労働審判手続の方が上回っているのではないでしょうか。

 とはいえ、建築紛争においては、経験豊かな建築士に判断者として参加していただく意義は非常に高く、東京地方裁判所における実際の建築訴訟においては、建築専門部である民事第22部において、訴訟として受け付けながらも、建築士の先生らが調停委員を務める調停手続に付する(付調停と言います。)という手続をとります。すなわち、調停手続の迅速・専門的・柔軟という長所をフルに活用するというものです。ここで裁判所としても工夫をしているのは、調停手続に付されたといっても、調停手続の期日が、同時に訴訟手続の期日とされることです。すなわち、調停手続と訴訟手続が同時並行していき、万が一、調停が不成立に終わっても、調停手続での取り調べなどの結果が訴訟手続における取調べとして活用されるというもので、上述した訴訟手続の公権的終局的解決を図るという長所も取り入れられるという一石二鳥的手続と言えます。実際には、調停不成立で判決での判断ということになることは少ないらしく、たぶんに調停が不成立でもその手続の中で認定された事実について裁判所が判決するということになるという、いわば『伝家の宝刀』的な事実上の効果を当事者も感じながら手続きを進めることで、調停が成立し、紛争が解決していくのだと思われます。
 住宅紛争審査会は、その伝家の宝刀がない分、当事者に対する事実上の強制力がなく、あっさり不調となってしまいがちですが、そのあたり、今後、住宅紛争審査会の制度を充実していくためにも何らかの工夫が必要になってくると、本事件を通じて考えた次第です。
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