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最近の解決事例紹介(不動産編)− 会社分割による賃借権の無断譲渡 2013.1.15

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 昨年末、裁判所で1件の和解が成立しました。事件の争点は、とあるビルの1階を賃借していたテナントが、そこで行っていた飲食店事業を会社分割により新設した会社に移転したのですが、そのビルにおける賃借権も含めて移転してしまったことが、賃借権の無断譲渡に当たるかというものです。
 ビルの賃借人であったA会社が、会社分割をして、新設会社B会社に、ビルの賃借権を含めた飲食店事業を承継させる会社分割を行ったのですが、分割に際し、A会社はB会社の株式100%を所有する形としました。賃貸人であるビルオーナーは、事前に会社分割による賃借権の移転をA会社から打診されたものの、その会社分割による新設会社への賃借権の移転を認めていません。当事務所は、このビルオーナーの代理人として活動しました。

 オーナー側は、@会社分割による分割会社から新設会社に対する賃借権の移転は、民法612条に定める賃借権の無断譲渡に当たること、およびA分割会社であるA会社とオーナーとの賃貸借契約書中には、賃借人会社の経営者が実質的に交代した場合、たとえば、大株主が変更したとか、会社の経営陣が変わってしまった場合には解除できるといういわゆるオーナーチェンジ条項という特約があることを理由として、当該賃貸借を解除し、テナントに対して、建物明渡しを請求するという訴訟を提起することになりました。
 というのも、分割会社は、新設会社の100パーセント株式を、会社分割と同時に、第三者である同じ飲食業を行うC会社に売却していたという事情があるからです。オーナーにしてみれば、A会社という法人を信用して当該ビルを賃貸したのであり、いつの間にかC社というオーナーにしてみれば何ら信頼関係がないものが賃借人になるというのは、納得がいかないというわけです。

 裁判が始まり、まず、争点となったのは、会社分割に伴う分割会社から新設会社への賃借権の移転が“譲渡”に当たるかです。当然、オーナー側は、分割会社と新設会社は別法人であるからには、賃借権を譲渡していることになると主張しました。これに対してテナント側は、会社分割というのは、分割会社から新設会社を会社の組織再編行為として切り出す、すなわちクローンを作っているのだから売買のような譲渡ではなく、いわゆる包括承継であって、譲渡ではないという反論をしてきました。
 この反論に対して、オーナー側としては、上述の通り、株主が全く入れ替わったこと、加えて、会社分割当時、B社の代表取締役はA社の代表取締役が兼任していましたが、何と裁判中に件の代表取締役が辞任し、C社から派遣されてきた人がB社の代表取締役となりましたので、実質的に経営権の変更があったものとして、オーナーチェンジ条項に該当すると主張できるはずです。
 となりますと、賃借権の無断譲渡やオーナーチェンジ条項違反を理由として、債務者の債務不履行による契約解除が認められるところです。もっとも、不動産賃貸借に関する最高裁判所の判例においては、債務者である賃借人に債務不履行があったとしても、賃貸人と賃借人との間の“信頼関係が破壊”されない限り、契約を解除できないという「信頼関係破壊の法理」が確立されています。
 この「信頼関係破壊の法理」は、賃借権の無断譲渡の場合にも適用され、最高裁は、他の事件で、たとえば、個人事業が株式会社に法人成りした事例や、近い親族間での譲渡の事例については、賃貸人・賃借人間の信頼関係を破壊しているレベルまでには至っていないということで、契約解除を否定しています。
 本件において、オーナー側は、テナント側から会社分割による賃借権移転の相談受けていた段階で会社分割を強行され、信頼関係は既に破壊されていると主張しましたが、テナント側は、会社分割が実行された後も、経営している飲食事業の内容は変わっておらず、また、店舗の名称も変わっておらず何らオーナーに迷惑をかけているものではないのだから、両者の信頼関係はいまだ破壊されたというレベルに至っていないという反論をしました。

 これまで会社分割を事業再建のツールとして利用しているケースが散見されるところですが(濫用的会社分割については、本HPのhttp://www.kanda-law.jp/saisei_a7.htmlをご参照ください。)、会社の事業にとって不動産賃貸借が重要な要素となっている場合には、事業を再建するための会社分割を有効とする会社法・倒産法上の要請と、賃貸人たるオーナーの賃貸事業という営業の自由・財産権を保護する要請とがぶつかり合うことになります。そして、本件もこの両者の保護が要請される事例として、裁判所もなかなか判断が難しいということもあり、和解が適切な事案という判断になりました。その結果、新設会社が、オーナーに対して、“賃借権譲渡に対する適切な承諾料を支払う”ということで、今回和解が成立したものです。
 判決という裁判所の判断をあえて回避したのですが、今後とも、会社分割に絡んだ賃借権譲渡の問題は、他案件でもクローズアップされる可能性が高く、何らかの判断規範がほしいところです。
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