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最近の解決事例紹介(不動産編)− 抵当権設定後の賃借人 2016.2.1

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 都内のマンションに賃借人として居住する人から相談を受けました。相談内容とは、現在居住するマンションの部屋の所有者が、今回、競売により変わったとのことで、新しいオーナーである賃貸人からマンションからの退去を求められているが、どうすればいいのかというものでした。早速、当該マンションの部屋の登記簿謄本を取り寄せてみますと、確かに、最近、マンションの部屋のオーナー(区分所有者)についての移転登記が、競売の実行を原因としてなされていました。さらにその競売の根拠となる権利としての抵当権の設定時期を見ますと、約5年ほど前になされており、登記されていました。そこで、相談者に、何時当該マンションに入居したかということを尋ねると、約6年前ということで、当該抵当権設定の約1年前だったというものです。

 抵当権と賃借権の関係というのは、抵当権の設定登記前に設定された賃借権(ただし、対抗要件を具備する必要があります。)は,抵当権に対抗することができるため、当該不動産が競売によってもその効力を失うことはなく、買受人はこの賃借権を引き受けることになります。しかしながら、抵当権の設定登記の後に設定された賃借権は、買受人に対抗することができません。この場合には,賃借権は競売によってその効力を失い、買受人は、賃借人に対して、建物の明渡を請求できることになるのです(民事執行法59条2項,188条)。(ただし、明渡請求があれば、直ちに建物を出ていかなければならないというのではなく、6か月の明渡猶予制度というのがありますが、ここでは本論ではないので詳述しません。)すなわち、建物入居した時期(賃借権は通常登記するということはなく、建物賃借権では、実際に入居した時期が「対抗要件」の具備した時期ということになります。)が、抵当権の設定登記の時期の前後で、賃借人にとっては天国と地獄になるのです。

 今回の相談者もまさに、当該マンションの部屋に実際に入居した時期が、当該マンションに設定された抵当権の登記時期よりも前であれば、そのまま(賃料は当然支払わなければなりませんが)居住し続けられますし、後であれば、6か月以内に退去しなければならないことになります。相談者の話によると、当該マンションへの入居は、当該抵当権設定の約1年前であり、その時の賃貸借契約書もあるということですので、ひとまず退去請求されることはないのではとアドバイスしたのですが、相談者からは、新区分所有者の代理人弁護士から、内容証明で退去を要請しているので、代理人として交渉してほしいということとなり、事件として受任することとなりました。そこで、当方から、相手方代理人に交渉を申し入れ、上述した入居時の賃貸借契約書を提示して、「抵当権設定前の賃借人」であるとの主張をしました。相手方代理人からは、オーナーと相談してまた連絡しますということで、一旦その場は収拾されましたが、数か月後、また相手方代理人からコンタクトがあり、会ってみますと、“抵当権設定後の賃借人”であるから、退去してほしいという要求でした。当方からは、賃貸借契約書をどう考えるのかと反論すると、相手方代理人から、「その賃貸借契約書のひな型(よく文房具屋さんに売っている市販のフォーマットです。)は、新しいものであり、賃貸借契約締結当時には、存在しなかったものである」という衝撃的な説明があり、かつ、相手方代理人は、当該マンションを管理している管理会社にも弁護士会照会制度を使って、当方が主張する賃借期間についての調査をしたのですが、必ずしも相談者が、入居時から現在に至るまでの全期間を通じて占有を継続しているものではないことを示しているものでした。

 そこで、今回は当方がいったん持ち帰り、相談者とも相談した上で、最終的には、相当額の解決金をもらうことで、当該マンションから退去する旨の合意書が締結されることとなりました。当方としては、裁判となるとなかなか難しいと判断されましたし、裁判上の和解となっても、任意交渉での条件よりも良くなるとは必ずしも言えないと思われましたので、裁判外の和解でベストの条件を引き出すのが最良と判断したものです。この事件を通じて思ったのは、相手方代理人もよく証拠(賃貸借契約書)を精査し、かつ、弁護士会照会など証拠収集のツールを駆使して立証活動に最大の努力をしているということでした。相手方の代理人とはいえ、なかなかあっぱれと感心し、自分が逆の立場になったとしたら、とにかく粘って立証を尽くすことが必要だと改めて反省した次第です。
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