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下町ボブスレー事件

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[下町ボブスレー事件]2018.4.1

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 平昌オリンピックも政治的な問題など色々ありましたが、無事閉幕しました。色々あった中で、下町ボブスレー事件を今回取り上げてみたいと思います。同事件を簡単におさらいしますと、大田区の中小企業らが日本の町工場の技術力の高さを世界にアピールするために、ジャマイカの女子ボブスレーチームに今回のオリンピックで使用するソリを提供するというプロジェクト(下町ボブスレーネットワークプロジェクト、以下「下町P])を立ち上げてジャマイカ側と契約したのですが、結局、ジャマイカ・ボブスレーチームは、下町Pのソリを使用せず、ラトビアの会社のソリをオリンピックで使用した(結果は20チーム中19位というもの)というものです。

 カリブ海にある熱帯のジャマイカが、冬季スポーツであるボブスレーになんで参加するのかという点については、1993年に製作された「クール・ランニングス」という映画が参考になります。同映画は、ジャマイカ男子4人乗りチームがカルガリーオリンピックに苦労しながらも参加した事実をモチーフにして、ペーソスあるコメディにしたもので、私も観たことがありますが非常に面白く楽しめました。同映画の世界的ヒットのおかげもあり、世界中からの寄附も得て、男子チームはソチオリンピックに再び参加しており、そのノリ(?)で女子ボブスレーも参加ということになったようです。

 当初は、下町Pとジャマイカ側(ジャマイカボブスレースケルトン連盟)との仲は良く、2016年7月に、両者間で2018年平昌オリンピックで下町Pのソリを使用する契約を締結しまして、オリンピックに向けて両者準備を進めていたのですが、2017年12月にドイツで行われたワールドカップにおいて、下町Pのソリが輸送トラブルで届かなかったことから、ジャマイカチームは急遽、ラトビアのBTC社製のそりを使用したというものです。ところが、同社のソリで臨んだレースで好成績を収めたので、これ以降、ジャマイカチームはBTC社製のソリの使用を続け、最終的にオリンピックレースも下町Pのソリを使用しなかったというものです。そこで、下町Pとしては、契約違反を理由にジャマイカ側に損害賠償を請求することも辞さないと息巻いていたのですが、今のところ、具体的なアクションを取ってはいないようです。

 今回の事件に接して、私がまず感じたのは、下町Pは一体何をしたかったのかがよく見えてこないということです。直接的には、ジャマイカチームにソリを提供して、そのソリでオリンピックに出場してもらうということなのでしょうが、その後のことは考えていなかったのでしょうか?契約書の内容はオープンにされていないので推測ですが、下町Pは無償で提供するということを約束していたのでしょうけれど、ジャマイカチームとして一回限りのオリンピックであれば、下町Pのソリの提供を受け、結果がどうであれ、運動会のその場限りの入場門のように終わったら廃棄処分ということでよいのかもしれませんが、上述した男子チームのように当然次のオリンピックを狙ってもいるでしょうし、下町Pとして一回限りの花火であったとしたら、そのあたり両者は同床異夢だったのではないでしょうか。どうもそのあたり、下町Pにはきつい言い方かもしれませんが、お祭りとして軽く考えていたように見えます。
 とはいえ、下町Pが制作したソリが性能が悪かったから使用されなかったのだという批判もあまり公平に見ていない意見ではないでしょうか。どうやら17年2月からジャマイカチームのコーチとなった人物とラトビアのBTC社との間には深い関係があることが見え隠れしますし、オリンピック前に同コーチが突然辞任したということからも何か、同コーチの存在が下町Pのソリの使用について不公平に取り扱ったという事実は十分推測されるところです。

 下町Pが何をしたかったのかという目的が確固たるもので無ければ、幾ら契約書をジャマイカ側と結んだとしても、その目的を達成するに十分な内容にすることはできないでしょう。本当に自分たちのソリを使わせようと思っていたのであれば、「専属使用条項」を入れ、何が起ころうとも自分たちのソリを使わせるべきでしたし、ジャマイカ側に他社のソリとの比較した上での選択権があるとしたのであれば、不公平なテストが行われないように公平公正な第三者に比較テストを行わせる条項を入れるべきだったと思います。そのあたり、どうせ1回のお祭りだけに使用する物を提供するからという(技術面はそうではないにしても)精神面では甘えがあったのではないでしょうか。甘えというときついかもしれませんが、ただで提供して“やる”のだからよもや裏切らないだろうという、あまりにジャマイカに対して性善説に立っていたのではないでしょうか。

 もとより、日本人は昔から外国との契約交渉が下手であることはよく知られたことです。「よもやそんなことはしないだろう」「そんなことはありえない」と希望的観測に基づき、勝手に自分たちでラインを引いてしまうという悪癖が抜けないのですね。だから、太平洋戦争末期に「よもや中立条約がまだ切れていないのだから、ソ連は攻めてこないだろう」とか、最近で言えば「インドネシアと日本はこれほど仲がいいのだから、裏切って中国の新幹線を買わないだろう。」とか、みな性善説なのですね。1945年当時のソ連には、ヤルタ会談でアメリカと約束した事情があるし、インドネシアのジョコ大統領には中国と多分何かの“約束”をしているという事情があるのでしょう。自分たちの希望的観測で外国と交渉していたら、痛い目に合うというのが今回の下町Pのメンバーも勉強できたのでしょうか。平昌まで行って、ジャマイカチームを応援しているところをみると、あまり考えていないようにも見えますが。そのジャマイカチームの一人がドーピングに引っかかったというのは、オチとしてもどのように位置づければいいのか理解に苦しむところです。
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