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朴槿恵元大統領逮捕と儒教

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[朴槿恵元大統領逮捕と儒教]2017.5.1

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 3月10日に、大韓民国最高裁判所において大統領の罷免決定を受け、大統領を失職した朴槿恵元大統領が、3月31日、更に追い打ちをかけられるように、サムスングループからの巨額の収賄容疑や企業に対する強要などの疑いで逮捕されました。2013年に韓国初の女性大統領として就任した当時と比べるとまさに天と地ほどの落差があります。当時、このようなことになるとは、当の本人も全く想像だにしていなかったに違いありません。「私は、今までの大統領たちとは違う。」と思っていたのではないでしょうか。

 韓国の今までの大統領たちは、本当に“畳の上で死ぬこと”ができた人は皆無と言っていいでしょう。前職の李明博は斡旋収賄で兄が逮捕され、その前職である盧武鉉は在任中に弾劾訴追され、兄の逮捕と収賄疑惑で投身自殺してしまい、そのまた前職の金大中は三人の息子の逮捕・投獄と晩節を汚さないケースが見つかりません。朴槿恵大統領の場合は、その父親である朴正煕大統領は、10・26事件で暗殺され、その母親も文世光事件で巻き添えを食って射殺されています。逆に、私は、朴槿恵が大統領に就任したとき、「ああ、この人はようやく畳の上で死ぬことができる初めての韓国大統領になるのかな。」と思ったのですが、結局そのようにはなりませんでした。何故そう思ったか、朴槿恵には、異母姉、妹、弟がいるものの両親が死亡しているので、親族としてはそこでそれよりも“上の親族”とは切れており、親族の数としては限定されている身の上だと思ったからです。

 中国、韓国は、未だに儒教により支配されていると言われる国ですが、そもそも儒教において一番重要な徳目は何でしょうか。南総里見八犬伝という滝沢馬琴の作品がありますが、その主人公の八犬士は、それぞれ仁・義・礼・智・忠・信・孝・悌という儒教の徳目である仁義八行の文字が書かれた玉を持っていました。この順番からすると仁・義が重要というように思えますが、実は、孝・悌が重要な徳目なのですね。「孝」は説明するまでもなく、自身の親に対して従うということです。「悌」は、年長者に対して従うということです。孔子自身がそう言っていますし、漢帝国の始祖である劉邦が敵に追われたときに、自分の子供を馬車から突き落としたことについては中国では子供は親のためにあるのだから当然だというのが中国でも常識ですし、元の時代に編纂された「二十四孝」は、24人の孝行息子の話です。従って、主君に対する忠よりも、孝悌の方が優先するのが儒教の社会なのですね。だから、科挙に合格した人を進士と言いますが、合格するまでは親戚が少ない人でも進士に合格すると、「私は、あなたの祖父の弟の連れ合いの兄の何とかだが、今度小学校を開校したいので便宜を図ってくれ。」と何百人と親戚が群がりですのですね。進士としては、そのような法律を曲げるようなことはできないと断ると、「おまえは、孝ということを知らないのか!悌ということを知らないのか!」と怒鳴られてしまいます。進士は、やむなく祖父の弟の連れ合いの兄の何とかさんの言うことを実現してあげるということになってしまうのです。このようなことが儒教国家においては現代においても続いているのです。だからこそ、李明博も盧武鉉も年長者である兄に言われれば悌の徳目を優先させて、法を曲げざるを得なかったのです。朴槿恵は、そのような祖父の弟の連れ合いの兄の何とかさんが(全くとはいえなくとも)血族にいなかったので、そのような悪弊は断たれるかと思いきや、朴槿恵には母陸英修を文世光事件による暗殺された失意の時期に心の“姉”として知り合った崔順実には、孝悌の徳目において逆らうことができなかったのですね。財団をつくってほしいと言えば官僚たちに“忖度”するよう手配をするし、崔順実の娘が有名女子大に入りたいと言えば、大学側に“忖度”するようにするということになってしまうわけですね。

 ということで、朴槿恵元大統領の逮捕については、マスコミも色々書いており、ある人は韓国はねたみの世界であることが原因であるとか、ある人は韓国は李氏朝鮮の時代から(すなわち儒教が国学となった時代から)党派争いがお家芸の国だからとか、なかなか当たらずとも遠からずの意見が出ており、私が論とした儒教の孝悌ということと複合的な理由となっているのかもしれません。朴槿恵元大統領も意外とさばさばしているのは、自分としては、孝悌の道に反することはしていないよということかもしれません。
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