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[三つ子の魂百まで]2017.2.1

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 平成28年12月28日、厚生労働省東京労働局は、電通の法人自体と同社の幹部社員1人を労働基準法違反の疑いで書類送検しました。平成27年12月に自殺した新入社員・高橋まつりさんの当時の時間外労働が1か月あたり約105時間にのぼり、長時間の過重労働が原因でうつ病を発症したことについての刑事責任を追及するものです。電通は、平成3年にも社員が過労により自殺するという事件を起こしており、平成12年に同社員の長時間労働について使用者である電通に安全配慮義務違反が認定された最高裁判決がなされています。
 労働法務の世界では、「電通事件」として有名な判例で、同事件は、入社して2年目の男性社員(当時24歳)の1か月あたりの残業時間が147時間にも及び、会社に強いられた長時間労働によりうつ病を発生したことが自殺の原因であるとして、最高裁判所は、電通に遺族に対して1億6800万円の賠償金を支払うことを命ずる判決をしました。

 両事件(今回の事件を便宜的に「平成27年事件」と言うとしましょう。)に共通するのは、月あたり100時間を超える残業時間であることを新人社員が行っていたにもかかわらず、上司や先輩が何ら改善しようとせず、見て見ぬふりどころか、パワハラが常態化し、ほとんど一人に責任を押し付けていたというものです。電通は、平成3年事件において真摯に反省するというコメントを出していたはずですが、これほどまでに似た平成27年事件を再発したということは、真摯な反省はなかった、再発策も単なるお題目に過ぎなかったということを証明しているのではないでしょうか。
 特に仕事の段取りがまだよくわからない新入社員については、細心の教育指導が必要であることは、私の新入社員時代の経験からも感じるところです。毎日毎時間が真剣勝負では、どんな人間でも長続きしないのであり、ずるくさぼることも必要でしょう。私の場合は、先輩諸氏から教えてもらわなくても緩急をつけつつ何とか長時間労働も乗り切りましたが、両事件の被害者は、両者とも真面目な性格で、責任感から完ぺきを目指すタイプということで、そのようなこともできなかったのだと思われます。
 だからこそ、周りの人間が新人を見守らなくてはいけないのですが、それをあおるというのは言語道断と言わざるを得ません。某氏が、「ブラック企業ならば辞めればいいじゃん。」というコメントをしていましたが、それは、経営者の立場しか知らない、かつ、平たく言えば上手なさぼり方をよく心得ている人間の言うことに過ぎず、かような真面目な人たちには何ら慰めにもならないでしょう。

 一方、1月に入り、佐川急便東京営業所の運転手が駐車違反を隠すため知人らを身代わり出頭させた事件で、警視庁交通捜査課は犯人隠避教唆などの容疑で、新たに男女18人を書類送検し、摘発された同社社員は62人に上ったというニュースがありました。佐川急便の会社としての関与については今回追及されていませんが、同社は平成4年に東京佐川急便事件という汚職事件を起こしており、また、平成23年には、東北支社で社員がパワハラを受けて自殺するという事件も起こしています。電通と佐川急便に共通するのは、コンプライアンス遵守の意識の欠如ということでしょう。その場そのときは、「真摯に反省します。再発防止に全力を尽くします。」と同じようなことを言っていながら、結局のところは、「三つ子の魂百まで」ということではないでしょうか。もちろん、顧客の方にも非があるのかもしれません。電通であれば、クライアントが夜中に電話をかけてきて、「明日までにお願いね。」と要請され、それを受けてしまう体質があるということですが、過剰な要求をする顧客側にもかような過労死問題を引き起こす原因があるかと思われます。依頼する側も、依頼を受ける側もこのような慣行を容認していることが、結局は日本の労働者の労働生産性を低くさせている原因であることに思いをはせる必要があるかと思った次第です。
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