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広島訪問とスピーチの解釈

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[広島訪問とスピーチの解釈]2016.7.1

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 伊勢志摩サミット終了後、5月27日夕刻、米国オバマ大統領は、現職米国大統領として初めて広島を訪問しました。大統領は、平和記念資料館(原爆資料館)を視察し、原爆死没者慰霊碑で献花した後、実に感動的なスピーチをしました。やはり、伊達にノーベル平和賞を受賞していないぞという印象を受けました。スピーチの中で、米国の原爆投下について謝罪をしなかったことについては、批判の声も相当あるようです。しかしながら、広島の人たちにとっては、必ずしも謝罪しなかったことが今回の広島訪問の意義をそいでいるとは思っていないようです。テレビのニュースでも報道されましたが、被爆者で米国大統領の広島訪問を実現させる運動されていた方は、「なにも謝罪してもらわなくてもいい。ただ広島に来てもらい、原爆資料館を見学し、慰霊碑に献花してもらい、被爆者と話をしてもらうだけでいいのです。」と言われていました。まさにそのとおりで、原爆資料館を見学すれば、いかに言葉で原爆被害の悲惨さを語ろうとも、一見に如かずとはこのことで、核兵器使用の正義がありえないことを誰もが理解できるものと思います。プーチン大統領、北の将軍様にも是非とも広島訪問をして頂きたいと思う次第です。

 オバマ大統領のスピーチが本当にうまいなあと思ったのは、その切り出しです。
 Seventy-one years ago, on a bright cloudless morning, death fell from the sky and the world was changed.(71年前、ある雲ひとつない快晴の朝、死が空から降りて来て、世界が変わった。)
 と何か叙事詩を読み上げているかのようですが、この1文で広島の人々の心をまずは捉えたと思います。つかみとでもいうのでしょうか。さすがはディベートの国で政治家になるだけはあります。しかしながら、この文章は主語のない受動態の文章です。上述したとおり、米国としては原爆投下の責任だけは認めたくないのであり、文章としても何か神話の世界の叙事詩になってしまったのは、この序文からなのでしょう。

 今回のオバマ大統領のスピーチは、いわば散文ですから英文を日本文に翻訳するにあたってもさほどの解釈の違いは出てこなかったでしょうが、歴史上では英文を日本文に翻訳するにあたって随分とニュアンスが違ってきたがために問題が起こったことがあります。最近刊行された書籍で、半藤一利・佐藤優対談の「21世紀の戦争論」(文藝春秋)というのを読んだのですが、その中で、太平洋戦争終戦時に起きた事件がありました。というのは、ポツダム宣言を連合国から受け取った大日本帝国政府は、無条件降伏後の日本の国体、特に天皇制の存続が明確でないということで、米国に問い合わせをしたところ、
 From the moment on surrender the authority of the Emperor and the Japanese Government to rule the state shall be subject to the Supreme Commander of the Allied Powers who will take such steps as he deems proper to effectuate the surrender terms.
 という回答がバーンズ国務長官から届きました。この米国バーンズ国務長官からの回答文は、外務省により、
 「降伏のときより、天皇および日本国の政府の国家統治の権限は、降伏条項の実施のため、その必要と認める措置をとる連合国軍最高司令官の制限の下に置かれるものとする。」と翻訳されたのですが、陸海軍は、subject toは、「制限の下に」ではなく、辞書で引いたら「隷属する」と書いてあるぞ、また外務省が意訳したのではないかということで、ポツダム宣言を受諾するかで一悶着起きて、時間が無駄に過ぎてしまい、その間に原爆投下されてしまったというものです。
 最後は、昭和天皇が、「制限の下に」でも、「隷属する」でもどちらでも受諾するということになったのですが、翻訳と言うのは恣意的にもできるという一つの例と言えましょう。「連合国」と言えば、本来United Nationsであり、これもまた外務省により「国際連合」と訳されているのは、何かの意図があるものと思わざるをえません。
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