賃料減額や不動産関係の弁護士なら神田元経営法律事務所へ
神田元経営法律事務所 TEL:03-6418-8011
平日 9:00〜17:00
お問い合わせ

日本版マイスター制度

TOP > 日本版マイスター制度

業務内容

神田元経営法律事務所
〒107-0062
東京都港区南青山5丁目11番14号
H&M南青山EAST301号室
地図はこちら

[日本版マイスター制度]2015.10.1

シェア
 リヒャルト・ワーグナーが作曲した「ニュルンベルクのマイスタージンガー」という作品は、日本でも著名でご存じの方も多いと思います。反ユダヤ主義的なワーグナーの曲であるということはともかく、大ドイツ的な印象を与える名曲ですが、私は、マイスタージンガーというのは、英語でいえばマスターシンガーとでも解され、すなわち“ニュルンベルグ(出身か在住の)名人クラスの歌手”という理解でいました。後々わかったのは、実は、中世ドイツのニュルンベルグにおいて、手工業ギルドの一種としてマイスターの称号を与えたものであるということが分かってきました。すなわち、一人のとびぬけた歌手に対して名誉的にマイスターの称号を表彰するのではなく、システムとしてマイスターを育成していくというものなのです。ドイツには170の職種でマイスターがあるとのことです。

 ドイツには、現在もマイスター制度が“高等職業能力資格認定制度”として存在します。ドイツでは、小学校4年生を修了すると、職業教育に進むか、高等教育に進むかという選択をしなくてはなりません。高等教育を選択するとギムナジウムという中高一貫のような8年制学校に進むこととなります。職業教育を選択すると、基幹学校・実科学校といういわば職業訓練校に進学することとなります。職業教育はデュアルシステムという制度にのっかり、見習い工として仕事をしながら、あわせて職業訓練校に通うというものです。その後、専門知識や技術を習得して、上位クラスの熟練工の試験を受け、熟練工になった後、3−5年間技術の研修を積んで最終的にマイスター試験を受けるということになります。マイスター試験に合格すれば、晴れてマイスターになるわけです。このあたりは、当事務所の顧問先会社の専務がドイツにマイスター制度を視察に行かれたときの報告発表でだいぶ知識を得たもので、この会社自体それこそ会社ごとマイスターにしてもいいくらいその分野での技術レベルがあるのですが。専務の報告発表を拝聴して分かったのは、なるほど、マイスターというのは、日本的な“100年に一人の名工”を名誉的に表彰するというのではなく、職業能力の資格として認定するという制度であり、単に個人の能力や就職した職場での教育環境に左右されるのではなく、国として一定のしかしながら高度のレベルの技術力を伝承していくためのシステムということが分かりました。ですから、年老いた名工をイメージしていたのですが、30代のマイスターもいるということで、意外に思った次第です。また、単にパン職人だったらパン焼きの技術の腕だけを磨くというのではなく、経営のことや法律に関しても勉強しなければならないということで個人事業としてもやっていけることを目指しているのも驚きました。実際、マイスターの資格が無いと開業できない職種もあるとのことです。なるほど、技術力のドイツを支えている一つとしてマイスター制度があるのではないかと納得した次第です。

 日本においても技能検定制度というものが存在します。厚生労働省の説明をそのまま引用すると、「技能検定とは、働くうえで身につける、または必要とされる技能の習得レベルを評価する国家検定制度で、機械加工、建築大工やファイナンシャル・プランニングなど全部で128職種の試験があります。試験に合格すると合格証書が交付され、「技能士」と名乗ることができます。」とのことです。しかしながら、私の身の回りでも「技能士」の資格を持った人がおらず(少なくとも名刺とかに肩書として示されているのを見たことが無い。)、自分の人脈の狭さを考慮したとしても、やはり社会一般に普及していないのではないかと考える次第です。そこで、「自民党は、第一級の職人を育成するドイツの「マイスター」制度にならい、現在の技能検定制度とは別の新たな「巨匠制度(仮称)」創設の検討に入った。ものづくりの熟練工として一段の地位向上を図り、待遇改善や後継者不足の解消につなげる狙い。議員立法で来年の通常国会への法案提出を目指す。」「自民党は今月に入り、「日本版マイスター制度に関する特命委員会」(委員長・井上信治衆院議員)で制度設計の検討を開始。「マイスター制度推進法案」(仮称)を策定し、資格試験の導入などを進める考えだ。同委関係者は「職人が資格を保有すれば、企業も発注しやすくなる」と説明。資格取得により高収入が期待されるため、職人を志す若者も増えるとにらんでいる。」(5月24日時事通信)との方針を示しています。しかしながら、果たして現在の技能検定制度と並列させてかような制度を作ったとして機能するのでしょうか。屋上屋を重ねる感じがしてなりません。そもそもドイツのマイスター制度に習ってと言いますが、自民党の議員たちは、ドイツのマイスター制度についての真の理解が足りているのでしょうか。上述しました通り、ドイツのマイスター制度は、教育制度と密接不可分になっており、単にその職種での技術力があるかないかを判定するだけでは、技術力の伝承という面のみならず、ものづくりの熟練工としての一段の地位向上を図るのは難しいと思います。やはり、長期間にわたり、当該職種の技術力のみならず、経営法律などの面においてもマイスターとして尊敬されるだけのシステムが無いと“ものづくりの熟練工としての一段の地位向上”は望むべくもないと思います。かといって、現在の日本において大学進学率が50%を超える状況において、小学校5年の時点で職業教育コースを選択するという人がどれくらいいるのかは甚だ心もとないことと思います。実際、現在のドイツにおいても、高等教育コースであるギムナジウムへの進学を希望する子供・親が多数となり、職業教育コースを選択するのは、“単に“成績が悪い子という振り分けになってしまい、ひいてはマイスター制度の根幹を揺るがすような状況になっているというレポートも耳にします。日本においてマイスター制度を植え付けていくということであれば、早い時期での振り分けはともかく、高校、大学における職業教育コースとの組み合わせを考えていく必要があるかと思います。その場合、職業訓練校的大学が出てきて、真の高等教育を目指す大学のあるべき姿とは違ってくるのかもしれませんが、既にメーキャップ技術の大学院大学があるくらいですから、大学の多様性は柔軟に考えるべきものでしょう。なによりも、後継者不足で伝統技術の伝承が危ぶまれている職種においてもシステム的に後継者及び技術の伝承が可能となり、また、資格レベルを統一することで、個人の能力や職場での教育環境に左右されず、質の確保もできるでしょう。そのあたりを自民党の日本版マイスター制度に関する特命委員会はよく理解してもらい、実効性のある日本版マイスター制度を構築して頂きたいところです。
シェア