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ワイマール憲法の骨抜き

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[ワイマール憲法の骨抜き]2015.9.1

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 今年8月初旬に池上彰さんの番組二つで、ヒトラーのドイツ第三帝国に関する特集がありました。この時期にこのテーマで番組を二つも作るというところに、池上さんの現在安倍政権が進めている安保関連法案の法制化に対する切り口を変えた批判であるなと思った次第です。
 2年ほど前に麻生太郎副総理が、どこかの講演会で、憲法改正に絡んで「(ドイツの)憲法は、ある日気づいたら、ワイマール憲法が変わって、ナチス憲法に変わっていたんですよ。だれも気づかないで変わった。あの手口学んだらどうかね。」という失言をしたことがありました。相も変わらず後先を考えずに発言する麻生さんらしい発言です。その発言部分の前には、「ドイツでは、ヒトラーは、民主主義によって、きちんとした議会で多数を握って出てきたんですよ。ヒトラーはいかにも軍事力で(政権を)とったように思われる。全然違いますよ。ヒトラーは、選挙で選ばれたんだから。ドイツ国民はヒトラーを選んだんですよ。間違わないでください。」という発言部分があり、確かにこの発言部分はそのとおりであり、国家社会主義ドイツ労働者党(ナチス)は、ミュンヘン一揆という暴力による権力奪取に失敗し、ヒトラーは投獄され、獄中で「わが闘争」を上梓し、選挙による権力奪取に方針変更し、1933年にヒトラーが首相となり政権奪取を達成したという事実として間違っていません。しかしながら、ナチスは、1945年にドイツ第三帝国が崩壊するまで、ワイマール憲法をいつの間にか、大々的に改正したわけではありません。この点、麻生さんの発言が不正確なのですが、正確には、「ワイマール憲法は、いつの間にか骨抜きにされていたのですよ。」というべきなのでしょう。

 ヒトラーは、政権奪取後に「全権委任法」という法律を成立させました。この法律は、わずか5条に過ぎず、さらに重要なのは1条、2条ですので、両条の全文を書き出してみます。
 「1 ドイツ国の法律は、憲法に規定されている手続以外に、ドイツ政府によっても制定されうる。本条は、憲法85条第2項および第87条に対しても適用される。
 2 ドイツ政府によって制定された法律は、国会および第二院の制度そのものにかかわるものでない限り、憲法に違反することができる。ただし、大統領の権限はなんら変わることはない。」

 すなわち、1条において、(ナチスが牛耳る)行政権が立法権まで行使できることを規定し、2条においては、なんと憲法に違反する法律であっても制定しうると堂々と規定しているのである。ここまで堂々と違憲の法律も制定しうると宣言していることを以て、憲法学的には、実質的な憲法改正であると言えるのかもしれませんが、それでもワイマール憲法自体を改正したものではありません。本来下位規範である「法律」で以って、上位規範の「憲法」を否定してしまったのです。

 池上さんもこの全権委任法のことを説明していましたが、安保法制が「全権委任法」とのアナロジーで捉えるべきというところまでは言及していませんでした。けれども、そこを言いたかったのかもしれません。多くの“一般人”からすると違憲である集団的自衛権を具体化する法律であっても、行政権である内閣の一方的な解釈変更で集団的自衛権を合憲であるとして、安保法制が合憲な法律であるというのは、ワイマール憲法と全権委任法との関係、法律が憲法を骨抜きにしたという点で似ているのではないでしょうか。

 麻生副総理がアドバイスしなくても安倍首相(というより、そのブレーンたち)は、いつの間にか憲法を改正しなくても骨抜きにすることは着々と進めていることからして、ナチスの手法は十分勉強していたものと思われます。ナチスが政権を奪取したのは、麻生さんが言う通り、選挙という適式な民主主義に則っており、何故ドイツ国民がナチスを選んだかというと、池上さんも説明していましたが経済政策の成功を挙げています。具体例として、高速道路であるアウトバーンの整備と、国民車としてのフォルクスワーゲンを挙げていました。この点も、安倍政権はアベノミクスという経済政策で国民の支持を得るという政策を取っていますが、ここらあたりもナチスのやり口を真似たらどうかねという路線を取っているように思えます。しかしながら、第一次大戦後の公共インフラが壊滅的であったドイツにおいてケインズ政策的に公共投資を促進することで経済発展を図ることができた時代と、幾ら財政出動しても全然景気が上昇しない現在の日本の状況とは違うような気がしますが。
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