賃料減額や不動産関係の弁護士なら神田元経営法律事務所へ
神田元経営法律事務所 TEL:03-6418-8011
平日 9:00〜17:00
お問い合わせ

衆議院総選挙を終えて

TOP > 衆議院総選挙を終えて

業務内容

神田元経営法律事務所
〒107-0062
東京都港区南青山5丁目11番14号
H&M南青山EAST301号室
地図はこちら

[衆議院総選挙を終えて]2015.1.1

シェア
 昨年12月14日に行われた衆議院総選挙において、自民・公明両与党が圧勝し、両党で議席の3分の2を超える325議席を確保しました。想定されていたこととはいえ、実際の選挙を行い、結果が出ることの重みは、選挙が終わってからじわじわと出てきており、今後の日本の方向性について、一つのマイルストーンにもなる選挙結果だったといえましょう。それはなぜかということを予測してみました。

 今回、安倍首相としては、自民党単独で議席の3分の2を取りたかったことと思います。3分の2の議席を確保できれば、2016年に行われる参議院通常選挙において、非改選分を合わせ自民党単独で3分の2の議席を確保できれば、公明党に何の気兼ねもなく、自分の好きな内容で、憲法改正を発議できることとなったからです。これは穿った見方かもしれませんが、もし今回、自民党単独で3分の2以上の議席を確保していたとすると、憲法9条の改正はさらに突っ込んだものとなったのかもしれません。

 現行の日本国憲法9条は、1項で「日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。」とし、同2項で、「前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。」となっておりますが、自民党が草案として公表しているのは、1項で「日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動としての戦争を放棄し、武力による威嚇及び武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては用いない。」とし、2項で「前項の規定は、自衛権の発動を妨げるものではない。」となっています。自民党の1項改正案は、趣旨はよくわかりませんが、文の符牒をあわせたところにあり、基本的な意味合いは変えていませんが、2項については、自衛権は有するぞということを明言し、自衛のための戦力を有することを消極的ではありますが、肯定しているものとなっています。

 たぶん、安倍首相は、9条2項は、「前項の目的を達するための自衛権の発動を妨げるものではない。自衛権を行使するための戦力を保持することを妨げない。」と改正したいのではないでしょうか。“前項の目的を達するための”というのがミソで、目的というのは、「日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、」という部分ですから、この目的を達するためには海外派兵しても自衛権であるから、新9条2項により、合憲であると言えるのでしょう。また、自衛権行使のための戦力を合憲化することで、堂々と「自衛隊」を、「国防軍」と名称変更することができるでしょう。

 今回、3分の2を単独で確保できなくなったことで、公明党に配慮する必要が残り、そうしますと、公明党も集団的自衛権について憲法解釈の変更という消極的賛成ならともかく、憲法で明確化することについては、党内で相当抵抗が出るでしょうから、安倍首相としても妥協して、2項は、「自衛権を行使するための戦力を保持することを妨げない。」というところにとどめるのではないかと思われます。

 では、集団的自衛権の問題というのは、憲法で明らかにせず、宙ぶらりんのままでも安倍首相としてはいいのでしょうか。結論から言えばいいのでしょう。選挙後から早速、集団的自衛権行使を容認する安倍内閣における解釈変更を法制化する動きが活発化してきました。安倍首相としてみれば、安保法制さえ成立させれば、目的は実質的に達したこととなります。それはなぜかというと、現行9条において集団的自衛権行使が違憲の可能性を含んでいたとしても、またそれを実施するための安保法制が違憲の可能性を含んでいたとしても、それ自体では、最高裁判所における違憲立法審査に服することはないからです。すなわち、日本の違憲立法審査というのは、ドイツなどでの通常の裁判所とは別個の憲法裁判所における違憲立法審査のように、法令そのものの違憲か合憲かを審査する抽象的審査制度ではなく、当事者と当事者(この場合、国v国民となりますが)の具体的な争い事があったときに初めて最高裁判所が、その適用自体が違憲なのか、さらにはその争いごとを解決する限りにおいて、当該法令自体の違憲性を審査するという具体的審査制度を採用しています(最高裁も警察予備隊訴訟判決で、具体的審査制度であることを明言しています)。
 そうだとすれば、集団的自衛権を合憲解釈したこと自体についてはもちろん、それを顕現化した安保法制についても、“何か”が起きない限り、国民は“法令自体が違憲である”として訴訟を提起することができないのです。“何か”というのはもうお分かりのとおり、例えば、実際にアフガニスタンあたりに自衛隊?国防軍?を派遣して、自衛権を行使して、戦死者?自衛死者?が出て、その遺族が、国家賠償請求訴訟を起こして、初めて違憲審査の対象となるのではないでしょうか。ですから、何時になるかわからない事態に備えての伝家の宝刀としての集団的自衛権である限り、最高裁判所の違憲立法審査権が発動されることはないということになるのです。

 このあたり、以前のコラムでも河野談話の実質的変更を安倍政権が行ったことについて、ブレーンに知恵者がいるということを申し上げましたが、集団的自衛権についても、憲法改正についても相当知恵者が安倍首相にアドバイスしているのではないかと想像できます。しかしながら、今回の総選挙において、投票率は戦後最低の52・66%、その中での自民党の得票率は、過半数にも達しない48%にすぎず、そうすると、全選挙民の中で、明確に自民党を指示したのは、わずか4分の1に過ぎないのです。4分の1の民意で、国の方向性を動かすことになることが果たして正当性があると言えるのでしょうか。憲法改正には、国会の発議について、国民の過半数の賛成が必要となっていますが、今回の投票結果からすれば、同じように通過して行ってしまいそうです。
シェア