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国際司法裁判所の管轄とは

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[国際司法裁判所の管轄とは]2014.6.1

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 平成26年3月31日、オランダ・ハーグの国際司法裁判所が、日本の南極海における鯨類捕獲調査について、国際捕鯨取締条約に違反するとの判決を下したことは、日本側代理人たちにとってもショックだったでしょうが、安倍晋三首相にとっては某審議官を叱責するほどのお怒りだったようです。
 国民にとっても寝耳に水のニュースで、なんでまた全面敗訴という国際的にも恥ずかしい結果になったのか国の責任を明らかにしたいというのが多数でしょう。この訴訟は、オーストラリアが、2010年に国際司法裁判所に提訴した事件ですが、そもそもこの頃のオーストラリアは、捕鯨に対して非常にネガティブな労働党が政権を取っていた時代です。日本が南極海で行っていた調査捕鯨に目をつけていた豪労働党が、何らかの抑制を図るために当初は、日本と外交交渉を行い、決着を図ろうとしていたのですが、交渉がブレークしてしまったので、国際司法裁判所に提訴したというものです。現在の豪州保守政権であれば、そこまでは踏み切らなかったかもしれません。その点は不運と言えるかもしれません。

 しかしながら、どうも日本側代理人たちは、南極海における調査捕鯨は、国際捕鯨取締条約第8条というIWC(国際捕鯨委員会〉のお墨付きをもらったものであるから敗訴するわけがないという建前論に終始しすぎたという感があります。いわば、法で認められた権利を行使するのに何が悪いという主張です。しかしながら、オーストラリアの主張というのは、その調査捕鯨という権利行使の実質が、条約8条で規定する調査捕鯨とは違っているという実質的審理を求めているもので、裁判所もオーストラリアの主張を採用したものです。
 そもそも、日本が今まで行ってきた調査捕鯨というのは、南極海における大型鯨類の商業的捕獲が禁止されたことについてのいわば抜け穴的なものであり、法的議論で言えば、「それは調査捕鯨ではなく、商業捕鯨である。とすると、日本の調査捕鯨は禁止されるべきである。」という論理になるのですね。どうもこのあたり、日本の代理人らは学者や外交官ばかりで、弁護士や裁判官のような職業法律家を入れていなかったので、事実認定的な攻め方守り方がわからなかったのではないかと邪推する次第です。国際司法裁判所で和解という概念があるか不勉強で知りませんが、もしあるならば橋下徹大阪市長を入れておれば、調査捕鯨数の削減ということで落としどころを見つけて和解ということになっていたかもしれませんね。そもそも、オーストラリア労働党政権との間でそのあたりでの手打ちを考えなくてはいけなかったのでしょう。

 私が、今回のこの裁判で興味を持ったのは、それら裁判内容や結果もともかく、なぜに調査捕鯨の問題が国際司法裁判所に提起されて裁判が成立してしまったのかということです。尖閣諸島や、竹島の問題において、日本側が、「国際司法裁判所において決着をつけましょう。」と言っても、相手方当事者国が応訴してくれなければ裁判は成立しないはずではなかったのか?という疑問です。
 ところが、今回の裁判に関するニュースをよく読んでみて、自らの国際法の不勉強が分かりました。日本というのは、国際司法裁判所規程に基づく義務的管轄受諾宣言国なのですね。すなわち、同規程第36条2項には、「この規程の当事国である国は、次の事項に関するすべての法律的紛争についての裁判所の管轄を同一の義務を受諾する他の国に対する関係において当然に且つ特別の合意なしに義務的であると認めることを、いつでも宣言することができる。」と規程されており、要は、条約などの紛争については他国から訴えられたら“義務的に”応訴しますよということを宣言しているのです。他方で、同宣言をしていない国は、提訴されても応訴する義務を負わないのです。
 この宣言を行った国は、日本の他イギリス、カナダ、ドイツなど67か国とのことですが、アメリカ、フランス、中国、ロシアなど国連の常任理事国でも宣言をしていません。韓国もしていません。このあたり、常任理事国でもイギリスがなぜに義務的管轄受諾宣言をしてしまったのか経緯を知りませんが、一般的な国をまたぐ民事訴訟においても、管轄の問題は極めて重要な問題であり、簡単に自分たちのコントロールが及ばないところで裁判が成立してしまうような事態は避けるというのが、国際法務において常識ともいえると思います。そのあたり、お人よしで性善説で国連に過大な期待を抱いている日本政府が、よく考えもせずに宣言を行ってしまったのではないかとこれまた邪推する次第です。そのあたり、手練手管のアメリカ等はよく考えているのでしょうか。裁判所に持ち込めば、正義が勝つということは、生の力と力がぶつかり合う国際関係においては、甘美な幻想に過ぎないと思います。

 国際連合広報センター
 http://www.unic.or.jp/info/un/un_organization/icj/jurisdiction/
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