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特定秘密保護法について

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[特定秘密保護法について]2014.2.1

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 特定秘密の保護に関する法律(特定秘密保護法)が、平成25年12月6日に国会で成立、同13日国民に公布されましたが、施行は、「公布から1年以内」ということでまだ実際に国民に対する関係では“効力”を発していない状態です。しかしながら、マスコミというのは目先の事件としてなくなると途端に報道しなくなってしまい、国民の間でもあれほど沸きあがっていた議論も何処に行ってしまったことやらとつくづく熱しやすく冷めやすい国民性といえますね。

 そこで、一段落経ったところで、同法を眺めなおしてみました。特に問題となったのは、“特定秘密”を漏えいした場合の罰則が表現の自由を侵害しないかというところでした。同法の第七章に罰則が、定められています。長いので、文末にまとめて引用しておきました。
 22条1項と22条2項において処罰の対象となる者が明示されています。22条1項では、「特定秘密の取扱いの業務に従事する者」であり、22条2項では、「当該提供の目的である業務により当該特定秘密を知得した者」となっています。
 22条1項の方については、同法の第四章で特定秘密の取扱者を詳細に定めており、まあ素直に読めば、安全保障に関る政府関係者ということで、これらの人が国家機密に関してべらべらとしゃべってはいけないことはわかります。22条2項の方なのですが、「公益上の必要により特定秘密の提供を受け、これを知得した者」が特定秘密を漏えいする行為も処罰されると規定されています。思うに、この22条2項の処罰が今回の論議のキモとなるのかもしれません。すなわち、22条1項で特定秘密を取り扱う業務に従事する人というのは、当然特定秘密を取り扱い始めるにあたり、政府に対して誓約書などを出すであろうし、国家公務員であれば国会公務員法で秘密保持義務が規定されているし、それなりの取り扱いに関しての覚悟があるわけですから、国会の立法であえて漏えいの罪を規定しなくても当然漏えいしないし、漏えいするときは、確信犯ではないでしょうか。
 ところが、公益上の必要により特定秘密を提供された者というのは、いきなり特定秘密に接することとなり、これを秘密として管理しなければならないという覚悟に欠けるであろうし、管理についての注意義務のレベルも低いものである可能性は高いと言えます。では、この22条2項の処罰の対象としているのは誰なのでしょうか。一般職の国家公務員は、国家公務員法で規律されるわけですが、国会議員など特別職公務員は同法の対象外です。多分に、べらべらと国家機密をしゃべってしまう“覚悟”の足りない議員さんをターゲットにしているように思われてなりません。民主党のH山元首相など真っ先に23条で処罰されそうですね。

 また問題なのは、23条の処罰規定です。すなわち、「人を欺き、人に暴行を加え、若しくは人を脅迫する行為により、又は財物の窃取・・・その他の特定秘密を保有する者の管理を害する行為により、特定秘密を取得した者」も処罰されることです。人をだまして特定秘密を取得するのが罰せられるのは当たり前だと思われる方も多いことでしょう。しかし、「その他の特定秘密を保有する者の管理を害する行為」により特定秘密を取得する行為というのは、いかにも曖昧模糊としていませんか。マスメディアは、国民の知る権利(憲法の表現の事由により保障されている人権です。)に資するために、あらゆる手段を尽くしても国家秘密にアクセスしようとします。国民は真実を知ることにより、国家権力を抑制することが初めてできるということであれば、かようなアクセス行為の違法性が阻却される可能性があるというケースも出てきましょう。
 しかしながら、過去にマスメディア側にとって悲しい事件がありました。最近、山崎豊子が小説化し、ドラマにもなった西山事件です。毎日新聞の西山記者が、外務省の女性事務官との男女関係を利用して、沖縄返還に関する日米間の密約を取得し、社会党代議士らが公にしてしまったという事件です。ニュースソースを秘匿せず、すなわち女性事務官を踏み台にして特ダネを取ったという行為が当時も極めて非難されました。国民の知る権利に資するための国家機密にアクセスすることの論点は吹っ飛び、もっぱら取得行為に態様の悪性だけがクローズアップされ、問題が矮小化されてしまったのは、国民にとって誠に残念です。今後も、マスメディアの国家機密に対するアクセスが、「その他の特定秘密を保有する者の管理を害する行為」という極めて曖昧模糊とした規範で封じられるのは、国民の知る権利に対する委縮効果となることが問題だと考える次第です。
 政府HPにおいては、「本法の適用に当たっては、これを拡張して解釈して、国民の基本的人権を不当に侵害するようなことがあってはならず、国民の知る権利の保障に資する報道又は取材の自由に十分に配慮しなければならない。」「出版又は報道の業務に従事する者の取材行為については、専ら公益を図る目的を有し、かつ、法令違反又は著しく不当な方法によるものと認められない限りは、これを正当な業務による行為とするものとする。」との解釈運用方針が示されていますが、どこまで今後守られるものでしょうか。

 最後にもう一つ問題点を指摘するとすれば、特定秘密としての指定は最長で60年続くということです。この60年という期間が、国民の国家権力の抑止のために必要最小限の期間なのかもあまり論議されていないようにも思えます。最近、「アルゴ」という映画をDVDで見ました。映画は、1979年のイランアメリカ大使館人質事件を題材としたものですが、同人質事件に関する情報が米国政府から公開されたからこそ、米国民が初めて同事件の真相を知ることができ、ベン・アフレックが映画を作ろうということになったのです。ちょうど35年前の事件ですが、35年という年月の経過が、歴史として客観的批評の対象とすることができると米国政府は判断したのですが、皆さんはどう思われますでしょうか。


(特定秘密保護法条文抜粋)
第7章 罰則
第22条 特定秘密の取扱いの業務に従事する者がその業務により知得した特定秘密を漏らしたときは、10年以下の懲役に処し、又は情状により10年以下の懲役及び1000万円以下の罰金に処する。特定秘密の取扱いの業務に従事しなくなった後においても、同様とする。
2 第4条第3項後段、第9条又は第10条の規定により提供された特定秘密について、当該提供の目的である業務により当該特定秘密を知得した者がこれを漏らしたときは、5年以下の懲役に処し、又は情状により5年以下の懲役及び500万円以下の罰金に処する。同条第1項第1号ロに規定する場合において提示された特定秘密について、当該特定秘密の提示を受けた者がこれを漏らしたときも、同様とする。
3 前二項の罪の未遂は、罰する。
4 過失により第一項の罪を犯した者は、二年以下の禁錮又は五十万円以下の罰金に処する。
5 過失により第二項の罪を犯した者は、一年以下の禁錮又は三十万円以下の罰金に処する。

第23条 人を欺き、人に暴行を加え、若しくは人を脅迫する行為により、又は財物の窃取若しくは損壊、施設への侵入、有線電気通信の傍受、不正アクセス行為(不正アクセス行為の禁止等に関する法律(平成21年法律第128号)第2条第4項に規定する不正アクセス行為をいう。)その他の特定秘密を保有する者の管理を害する行為により、特定秘密を取得した者は、十年以下の懲役に処し、又は情状により10年以下の懲役及び1000万円以下の罰金に処する。
2 前項の罪の未遂は、罰する。
3 前2項の規定は、刑法(明治40年法律第45号)その他の罰則の適用を妨げない。

第24条 第22条第1項又は前条第1項に規定する行為の遂行を共謀し、教唆し、又は煽動した者は、5年以下の懲役に処する。
2 第22条第2項に規定する行為の遂行を共謀し、教唆し、又は煽動した者は、3年以下の懲役に処する。

第25条 第22条第3項若しくは第23条第2項の罪を犯した者又は前条の罪を犯した者のうち第22条第1項若しくは第2項若しくは第23条第1項に規定する行為の遂行を共謀したものが自首したときは、その刑を減軽し、又は免除する。

第26条 第22条の罪は、日本国外において同条の罪を犯した者にも適用する。
2 第23条及び第24条の罪は、刑法第2条の例に従う。
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