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役人の行動属性

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[役人の行動属性]2013.11.1

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 先日、三鷹市の女子高生が以前交際していた男性にストーカー行為をされた挙句、刃物で殺害されるという痛ましい事件が発生しました。桶川のストーカー事件の時もそうでしたが、警察がもっと早く、積極的に関与していれば、このような事件は起きなかったかもしれません。問題と思えるのは、女子高生と両親が、高校所在地を管轄する杉並警察署に相談に行ったところ、杉並署は、女子高生の自宅所在地を管轄する三鷹警察署が担当すべきとのことで、三鷹署に行きなさいと指示しただけで、実際に三鷹署まで同行し、三鷹署に引継ぎをしなかったということです。この段階で、両署の連携が取れていれば、犯人のストーカー行為も何とかなったのではないかと悔やまれる次第です。

 この問題は、公務員の行動属性においてよく指摘される「縦割主義」、「職務権限踰越禁止」にかかわることです。皆さんも、区役所に行って何かの申請をしようとした時、その受付窓口だけが異様に長い行列を作っていて、しかたなく並んでふと横を見ると、隣の窓口には誰も行列を作っておらず、窓口の担当者も暇そうにしているが、決して、長い行列の窓口の手伝いをしない、隣の窓口が忙しくても悪びれる風でもないという経験がおありではないでしょうか。
 民間企業でそのような事態になれば、必ず担当者同士が手伝いあって、行列を作っている人たちを待たせないように努力しますよね(半分以上役所の銀行は別でしょうけど)。私も、いつも不思議に思っていたのですが、あるとき、ふっと、「ああ、この人たちは言われた職務権限の遂行だけを命じられ、職務権限以外の業務をすることは懲戒を受けると教育されているので、こういう状況でもおかしいと思わないのだな。」と変に納得できた時がありました。隣の担当者を手伝ってあげることが、逆にあだとなるということなのでしょう。この縦割り主義は、それこそ律令時代から、現代に至るまで綿々と続いています。しかし、縦割主義が戦争などが絡んでくると大変です。
 例えば、旧陸海軍でも、ある欧米機械メーカーに特許ライセンス料を、陸軍も海軍もお互いに支払っていたことを知らずに、大日本帝国として“ダブル”で支払っていたという笑い話がありましたが、このような縦割主義こそが、太平洋戦争開戦時に、陸海軍お互いの真の戦力を正直に開示しあうことなく、日本の戦力をだれも正確に把握することなく、戦争に突入するというとんでもない事態を引き起こしてしまったのではないでしょうか。 
 また、さらに悲惨な例としては、ガダルカナル島において、海軍がアメリカ軍と戦闘をして軍艦が沈没したので、海兵さんが島まで泳ぎ着いたのですが、同島を当時まだ実効支配していた陸軍は、食糧・衣料は陸軍のものだから海軍には支給できないということで、せっかく生き延びた海兵さんが多数死んでしまったというようなことも起きてしまったようです。まあ、これが役人の行動属性なのだということでしょうか。

 お役人の行動属性と言えば、「先例主義」「前例主義」というのが挙げられましょう。「前例がないから、そのような法律・条例に書いてないことは認められない。」と言われることは、役所と話をしていてよく出てくる会話です。すなわち、法律に明文で書かれていない事項については、慣例法がない限り、勝手に現場レベルで判断して“新しい”行動規範を作ってはいけないということです。これも律令時代から、有職故実という先例に基づく慣例法を形成していたという事実からもわかるように昔からあったものです。聞けば、職務権限厳守と同様、誠にごもっともな建前です。しかし、法律や条例という法規範は、国会や地方議会の議決が必要で時間がかかりますから、迅速機動的に物事を処理していかなければならない公的業務において、法規範がないということを理由に行動をしないのでは取り返しのつかないことも起こりかねません。
 先日、伊豆大島は台風26号による甚大な人的・物的被害を受けましたが、気象庁は、“50年に一度”の雨量を観測していたにもかかわらず、局地的であるとの理由で特別警報を出しませんでしたが、これも観測地点が「府県程度の広がり」になって初めて特別警報を出せるという基準に拘束されて、一地方の島しょのためには出せないという先例主義にこだわったものではないでしょうか。「府県程度の広がり」というドグマに縛られていると、きっと今後も“東京都の”小笠原諸島で大雨が降ったとしても、東京23区や桧原村、奥多摩町で大雨が降らなければ、特別警報は出ないということになるのでしょう。

 何故、お役人が「前例主義」になり、新しいことを積極的にやりたがらないかというと、それは人事評価の「減点主義」に関連しているのではないでしょうか。すなわち、お役所での人事評価というのは、業績という極めて明確な基準がある民間企業と違い、お金儲けをしているわけではありませんから、プラスの評価要素は認めにくい、であればマイナスの行為をした人を減点していくというのが、役所の人事評価としてはわかりやすいのでしょう。かような減点主義では、結局、何も新しいことをしないことが一番の出世道ということになってしまいます。その弊害は申し上げるまでもありませんが、役所のみならず民間企業でもありうることは、「半沢直樹」の例をみてもよくお分かりと思います。

 さればどうすれば、かような役人の属性を是正できるかについては、私にも妙案は思いつきません。非常に根が深い問題というところでしょうか。今回は指摘だけにとどめたいと思います。
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