賃料減額や不動産関係の弁護士なら神田元経営法律事務所へ
神田元経営法律事務所 TEL:03-6418-8011
平日 9:00〜17:00
お問い合わせ

移転価格税制について

TOP > 移転価格税制について

業務内容

神田元経営法律事務所
〒107-0062
東京都港区南青山5丁目11番14号
H&M南青山EAST301号室
地図はこちら

[移転価格税制について]2013.8.1

シェア
 光学機器メーカーのHOYAが海外子会社との取引を巡って東京国税局の税務調査を受け、5年間で約200億円の申告漏れを指摘され、更正処分の通知を受けたとのニュースがありました。何でも追徴額は約33億円にも上るとのことですが、HOYAとしては、異議を申し立てる方針とのことです。

 今回の更正処分における国税当局の理由は、HOYAが東南アジアに所在する同社の子会社との取引において、取引価格を海外子会社側に有利に、すなわち日本側には不利に設定して日本側で源泉すべき利益を海外子会社に移したということで日本側で追徴課税されるといういわゆる移転価格税制に基づくものとのことです。
 確かに、日本における法人税の実効税率は、現在35.64%ですから、実効税率が17%のシンガポールのように法人税が安い国で納税する方が、グループとして負担する税金は半分で済むことになりますので、できる限り日本からの出荷価格を低くして“日本源泉の利益”を限りなくゼロにしたくなるのは、企業として致し方ない考えかもしれません。しかしながら、そのような価格調整を認めると、日本の税務当局は法人税を徴収できなくなってしまいますから、“本来あるべき”取引価格を設定して、それを下回る場合は、利益が日本側に源泉したものとして課税するというのが、移転価格税制です。
 移転価格税制の問題は、日本企業だけの問題ではなく、最近ではアップルが、タックスヘイブン(租税回避地)を利用して90億ドルの課税回避をした事例が耳目を集めましたが、グーグルやスターバックスなども、法人税の安い国での納税を利用した課税回避をしていることが話題になっています。

 今回のHOYAのケースでは、海外子会社からHOYA本社に対し、「製造技術」の研究開発の委託をしていたので、その「製造技術」という無形資産を海外子会社に帰属させることにより、利益を移転していたということらしいです(素人的には、HOYAが海外子会社から製造技術開発の委託を受けていたのであれば、開発料が逆に取引価格に上乗せすべきで、出荷価格は高くなるのではないかと思うのですが、詳細はよくわかりません)。ただ、日本国内での脱税事例でもソフトウエアという適正な価格がいくらなのかよくわかりにくい無形資産を利用したケースが多く、税務当局も「製造技術」という胡散臭い名目の無形資産を利用しているところが更正処分に踏み切った理由ではないかと外野としては穿ってみることもできましょうか。
 日本の税務当局も、アップル等のケースの新聞記事は読んでいるでしょうから、かような世界的な課税回避の流れについて鉄槌を食らわすべく、日本企業に対して抑止的効果を与える意図もあって、HOYAをまな板に上げたとも考えられます。HOYAとしては、当然今回の更正処分に納得できないので、国税不服審判所に異議を申し立て、そこで異議が棄却されれば、最終的には税務訴訟を提起することになりましょう。しかしながら、税務訴訟というのは、極めて勝訴率が低く(完全勝訴は数パーセント、一部勝訴でも10パーセント以下といわれます。)、それもあってかそもそも訴訟提起まで行かないケースが非常に多いのです。それでも、最近の税務訴訟では、納税者側の勝訴判決が出てくるようになってきました。例えば、武富士創業者の息子に対する課税に関する税務訴訟につき、最高裁で納税者側勝訴の判決が出たというのがありましたし、少しずつかもしれませんが、「税務訴訟はやっても無駄」という傾向が変わりつつあるかと思われます。
 HOYAとしては全面勝訴でなくとも、ある程度でも海外での源泉利益が認められればその分は勝訴(すなわち還付)となるでしょうし、もとより、“適正な”日本源泉の利益の計算フォーミュラが確立されているわけでもないので、戦う意義はあるのでしょうね。ということで、今回のHOYAの移転価格税制事件についても、(訴訟になることを前提としてはいけませんが野次馬としては)どのような判決が出るか興味のあるところです。

 どのような結果になるにしても、日本企業がグローバル化していく傾向であれば、今後移転価格税制に関わる税務当局と企業側の戦いは多くなるのではないでしょうか。となると、税務当局は適正な利益の査定に膨大な手間をかけることになり、徴税実務の観点からは、移転価格税制を見直さざるを得ない事態になるかもしれません。シンプルな徴税実務ということであれば、利益に着目するのではなく、売上高とか“動かしようがない”数字に着目するような外形課税方式が採用されることになるのかもしれません。

シェア