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学歴詐称の歴史

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[学歴詐称の歴史]2025.9.1

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 学歴詐称で著名な事件では、まず「新間正次事件」が挙げられましょう。中京地方でラジオなどのパーソナリティーや中日ドラゴンズの私設応援団などで有名であった新間正次は、その中京圏における知名度を最大限利用し、1992年に実施された第16回参議院議員通常選挙で愛知県選挙区から民社党の公認候補として立候補して当選しました。新間正次は、選挙公報に「昭和28年4月、明治大学政経学部入学」と学籍を記載し、選挙期間中に演説会で「中学時代に公費の海外留学生に選ばれ、スイスで半年間ボランティアの勉強をした」と述べていました。ところが、新聞報道により、選挙公報の虚偽記載が発覚し、新間正次は、学歴や経歴が事実ではないことを認めたものの、虚偽学歴については「受験したが、手続きは父親に任せていた。合格したものと思い込んでいた。入学手続をしていなかった。」「選挙対策の責任者に削除を頼んでいたが、そのまま掲載されてしまった」等と勘違いや事務手続き上のミスだったと釈明し、スイス留学については「過大な表現だったが、虚偽の認識はなかった」として当選目的の意図的な詐称であることを否定しました。しかしながら、名古屋地方検察庁は新間正次が選挙における当選目的で経歴を詐称した公職選挙法違反(虚偽事項公表罪)で在宅起訴しました。刑事裁判となり、名古屋地裁は、新間正次に禁錮6か月執行猶予4年の有罪判決を言い渡しました。大学入学学歴とスイス留学の2つの事項で虚偽を述べたことについて当選目的であったと認定した結果の判決でした。執行猶予が付いたとはいえ、6か月の禁固刑が言い渡されたのは、やはり当選目的での虚偽告示は罪が重いといえましょう。

 次に思い出されるのは、野村克也監督の奥さんであった野村沙知代の学歴詐称問題です。野村沙知代は、1996年に、新進党の小沢一郎からの立候補要請を受けて、第41回衆議院議員選挙に東京5区・比例東京ブロックから重複立候補しましたが、結果は小選挙区で次々点、比例で次点と落選となりました、ところが、選挙後に、実弟から「沙知代が公表している経歴等はそのほとんどが嘘である」という告発がなされ、その当時争ってきた浅香光代により、野村沙知代が選挙に立候補した際に選挙公報等に「コロンビア大学留学」「1972年に野村克也と結婚」など計7件の虚偽の経歴を記載していたとして、公職選挙法第235条(虚偽事項の公表罪)違反の疑いで、沙知代は東京地方検察庁に告発されてしまいました。そこで、検察庁で当時担当官であった若狭勝検事と捜査員が、現地コロンビア大学で調査したところ、大学の事務当局には当時の留学生の学籍原簿や単位認定記録等自体が残っておらず、経歴詐称の証拠は得られませんでした。一方、婚姻歴については息子・克則の出生日から逆算して、1972年当時には既に克也と「事実婚」の状態にあったと推定されました。実際の正式な婚姻の成立は1978年4月です。結果として、検察庁は、嫌疑不十分により不起訴としましたが、野村沙知代はその後、選挙結果に伴って生じていた繰上げ当選の権利を辞退する意向を示しました。留学問題については、大学に記録が残っていない以上、嫌疑不十分とせざるを得ないと思われますが、もし実際にはコロンビア大学に留学していなかったとすれば、選挙民とすればコロンビア大学のような著名な大学の留学経験を投票動向において重視する可能性があり、やはり当選目的とみなされ、新間正次のように有罪となった可能性はありえましょう。結婚問題の方は、1972年当時に野村克也と結婚していようがいまいが、選挙民の投票動向に影響を与えるとは言えないかと思われますので、この論点だけであれば、不起訴処分となってもしかるべきかと思われます。

 現在に至るまでうやむやといっていい状態にあるのが、小池百合子東京都知事の学歴詐称疑惑問題です。小池百合子のエジプトのカイロ大学を卒業したという経歴について、長年にわたり詐称ではないかという疑惑が持たれてきました。疑惑のポイントは、“小池氏はカイロ大学を本当に卒業したのか?”という点ですが、小池氏は1976年にカイロ大学文学部社会学科を首席で卒業したと公表しています。それに対して、「卒業を証明する客観的な証拠(卒業証書など)に疑義が呈されており、当時の同居人や関係者から、大学に通っていた様子がなかったとか、語学力が不十分だったといった反論が出されています。それらの疑惑に対し、カイロ大学は、過去に複数回、「小池氏は正規の卒業生である」という趣旨の声明を発表しています。小池百合子氏本人も一貫して疑惑を否定し、「大学が卒業を認めている」と主張し、選挙公報などにもカイロ大学卒業と記載し続けています。野村沙知代のケースのように、検察官が現地に飛んで調査をすれば事実は明らかになる可能性があるかと思うのですが、いかんせん、カイロ大学自身が正規の卒業生であると声明を出していることから、実地調査をしても本当のところはわからない可能性があります。

 さて、今回の伊東市長選挙において、現市長の田久保真紀が学歴詐称したという疑惑ですが、どうやら「東洋大学卒業」という事実はなかったことは本人も認め、除籍であったということについては争いがないようですが、問題はまず公職選挙法違反となるかという点です。田久保真紀は、意図的なのか、マスメディアに対するアンケートには東洋大学卒業という回答をしているようですが、選挙公報においては東洋大学卒業とは申述していないようです。となれば、選挙公報での不記載により、当選目的での学歴詐称ではないということで検察庁としても、マスメディアに対するアンケートにおける不実記載をもって当選目的の学歴詐称といえるかどうかは微妙ではないでしょうか。新間正次や野村沙知代のケースは、明らかに選挙公報に記載しているものですから、当選目的というところでの争いはなかったといえましょうが、マスメディアに対するアンケートでの学歴詐称がそこまで認定されるか検察庁としても悩むところかもしれません。しかしながら、そのあたりでやめておけばよかったのに、田久保真紀は、東洋大学の卒業証書と称する書面を、伊東市の広報担当者や、市議会議長・副議長に見せている点です。関係者の証言では、田久保真紀の友人らがおちゃらけで偽の卒業証書を作成したという話もあり、もしそうだとすると田久保真紀は、私文書偽造罪には嫌疑しなくても、偽造私文書行使罪に嫌疑される可能性がありましょう。友人がマッチ棒など使って大学の印をまねたという証言もありますので、そうすると"有印"私文書行使罪に該当することとなり、刑法161条で3月以上5年以下の拘禁刑になる可能性があります。さらには、伊東市の百条委員会に対する対応、例えば不出頭とかについてのペナルティも問題になりえましょう。いずれにしても、田久保市長は自ら辞任しないということで、市議会での不信任決議、再選挙という道に行くのではないでしょうか。伊東市民も大変な人を選んでしまったという感がぬぐえません。
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