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総選挙は無効となるか

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[総選挙は無効となるか]2013.1.1

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 昨年の12月16日に行われた衆議院の総選挙は、自民党の圧勝で終わりました。これでまた、自民党政権が復活したのですが、はたして“日本を取り戻す”ことができるか、期待できないにしても期待せざるを得ません。
 しかしながら、今回当選した代議士たちも、今回の総選挙、特に小選挙区選挙が無効となり、選挙がやり直しになる可能性があるとしたら、浮かれてばかりはいかないでしょう。今回の総選挙時点において、高知3区の有権者数は約20万5000人で、一方、千葉4区の有権者数は約50万人であり(大都市の選挙区の有権者数はアバウトで50万人となっています。)、いわゆる一票の格差は、1対0.41となっており、すなわち千葉4区の有権者の一票の価値は、高知3区の有権者の0.41票しかないことになります。

 前回の総選挙の小選挙区選挙でも同様の一票の格差があり、選挙無効を求める裁判が起こされ、昨年平成22年3月22日に、最高裁判所が、「(かような一票の格差は)憲法の投票価値の平等の要求に反するに至っていたものであるが、いずれも憲法上要求される合理的期間内における是正がされなかったとは言えず、憲法14条1項に違反するとまでは言えない」という判決を下しました。回りくどい表現ですが、要は、違憲状態になっていたが、まだ政治部門に選挙区などの区割りを見直すチャンスを与えるので、罪一等減じて、実施された総選挙が違憲として無効とはしないということでしょう。
 憲法や行政法の世界では、このような違法なのだが、無効とすると社会的影響が極めて大きいので無効とまではしないという判決を「事情判決」と言いますが、私も最初憲法の勉強をしたときには、どこかすんなりとのみこめないものがありました。違憲なものはストレートに無効になるというのが、一般の方の素直な感覚だと思います。

 ではなぜ、小選挙区においてかような2倍を超える一票の格差が生じているのでしょうか。
 衆議院の選挙区制については、中選挙区制の時代にも一票の格差が問題になりましたが、あの頃は、高度成長期でもあり、人口動態が大きく変化している時代、すなわち地方から都会への大きな人口移動のうねりがありましたから、終戦間もないころの選挙区区割りにひずみが出たのはやむを得ないと思いますし、中選挙区制ですから、選挙区ごとの当選者の数を調整したりとの小手先的な対応に終始したのもやむを得ず、なかなかすべての選挙区が同条件というのは難しかったと思われます。
 しかしながら、小選挙区制が導入された後も、一票の格差が生じることに、私は、最初どうしても納得がいきませんでした。というのは簡単な話しで、日本の有権者数約1億人を国会議員数の300で割ればいいだけのことで、そうすると、各選挙区ごとの人口はおよそ33.3万人になります。また、最近、老齢化してきた日本において、戦後のような大きな人口移動があるわけでもなし、いったい何故1対1にならないのか、逆に不思議ではありませんか。
 実は、小選挙区制を導入した際に、とんでもない“不公平な”制度を導入していたのです。それが「1人別枠方式」と言われるものです。1人別枠方式というのは、日本をフラットに300の選挙区に分けることをせず、まず各都道府県に1人、東京都にも1人、鳥取県でも1人というように47都道府県に割り当てていて、残りの253人を人口で比例配分しているのです。ということで、鳥取県の様に人口が58万人しかいない所でも、小選挙区が2区あるのは、この制度のためなのです。また、高知県の人口は、約66万人なので、小選挙区としては2区であるべきなのに、3区もあるのはこのためです。
 従い、1人別枠方式を廃止しない限り、最高裁判所の指摘する憲法の投票価値の平等が貫徹されないのです。その点、平成22年の最高裁判決でも「1人別枠方式」の問題点を明確に言及していました。何故、マスコミはこのような重大な点を報道しないのでしょうか。今回の総選挙前に、この1人別枠方式の問題点を指摘していたのは、私が見る限りNHKだけだったと思います。池上彰先生の番組でも、一票の格差について、この本質な問題点を指摘していませんでした。

 ということで、今回の総選挙についても、当然に違憲訴訟が提起され、“違憲状態”にあることの認定がされることは容易に予想されますが、問題は、最高裁判所が今回の総選挙を無効と宣言するかという点です。その場合には、小選挙区選出衆議院議員300人全員の当選が無効となるのか、それこそ2倍以上の格差がある選挙区同士、すなわち高知3区と千葉4区との関係で無効となるのか、さらに、選挙無効も平成24年12月16日に遡って無効となるのか、それとも、無効判決の日以降に将来的に無効となるのか、これらの点について、重要な判断がなされることになると思います。
 また、野田内閣としては、「0増5減」の法律自体は通したのでやるべきことはやったという抗弁をしているようですが、この「0増5減」に基づく新しい区割りは、今回の選挙に間に合いませんでしたから、平成22年の最高裁判決で言及された「憲法上要求される合理的期間内における是正がなされた」といえるかという点も問題となるでしょう。

 選挙というのは、議会制民主主義の根幹の制度ですので、これが不平等のまま放置されるということは、やはり許されるべきではありません、根本的な解決が望まれるところです。
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