賃料減額や不動産関係の弁護士なら神田元経営法律事務所へ
神田元経営法律事務所 TEL:03-6418-8011
平日 9:00〜17:00
お問い合わせ

食べログ裁判の判決から

TOP > 食べログ裁判の判決から

業務内容

神田元経営法律事務所
〒107-0062
東京都港区南青山5丁目11番14号
H&M南青山EAST301号室
地図はこちら

[食べログ裁判の判決から]2022.8.1

シェア
 東京地方裁判所は、令和4年6月16日、グルメサイト「食べログ」の運営会社の「カカクコム」に対して、店の評価点数算出のアルゴリズムの変更が独占禁止法違反に当たるとして、3840万円の損害賠償の支払いを命じる判決を下しました。食べログが2019年5月21日に行なった店の評価点数算出のアルゴリズムの変更によって、原告である「韓流村」が運営するチェーン店の点数が大幅に下落したため、来店者数が減少し、損害を被ったとする訴えを起こした裁判に対する判決です。韓流村は、「食べログが、ユーザーが付けた点数とは関係なくチェーン店のみ点数を差別的に下げる行為は『独占禁止法上の差別的扱い』及び『独占禁止法上の優越的地位の濫用』にあたる」として、5億3900万円の損害賠償を求めていたものです。

 このニュースに接し、まずはてなと思ったのは“なぜ独占禁止法違反の問題なのか”ということです。独占禁止法の差別的扱いや優越的地位の濫用の問題というのは、あくまでも契約関係がある二者間の取引行為についての問題ですので、利用者が店に行って勝手に点数をつけて、それを食べログサイトで一定のアルゴリズムに従い点数付けを勝手にするだけのことであれば、取引関係がないのではないかと思ったからです。記事を読んでいくと、どうやら「韓流村」は、「カカクコム」との間で有償サービスを受ける委任契約を締結していたとのことで、その契約を巡って独占禁止法の差別的扱いや優越的地位の濫用の問題が生じたということらしいです。想像ですが、韓流村は、カカクコムとの間で店の評価点数を上げるためのアドバイス提供サービス契約を締結していたのですが、19年5月のチェーン店の評価を下げる方向でのアルゴリズム変更により、韓流村各店舗の評価が一斉に大幅に下がったことに驚いて、カカクコムにクレームしたが取り合ってくれなかったので、独占禁止法違反という構成を組み立てて訴訟に及んだのでしょう。韓流村からは、「有償サービスだったら、点数を上げてくれると言っていたのに、これじゃ裏切りではないか!」とまで言ったのではないでしょうか。

 それで、独占禁止法の差別的取り扱い及び優越的地位の濫用についてですが、これは同法が禁止している“不公正な取引方法”の中の具体的な類型ということになります。
 差別対価・差別取扱いの禁止というのは、取引先や販売地域によって、商品やサービスの対価に不当に著しい差をつけたり、その他の取引条件で差別することを禁じるものです。例えば、自社のライバル社を排除するために、ライバル社と取引をしている取引先に自社の製品を不当に安く販売することなどがあげられましょう。韓流村は、カカクコムがチェーン店でないカカクコムの契約会社に対し、有利な点数をつけるためにチェーン店会社の点数を下げるという“差別的取り扱い”をしたと言いたいのでしょうか。
 また、優越的地位の濫用の禁止とは、取引上優越的地位にある事業者が、取引先に対して不当に不利益を与える行為を禁じることを言います。例えば、取引している下請け業者に対し、販売のために下請け業者の従業員を派遣させたりする行為などを言います。韓流村は、カカクコムがグルメサイトにおいて圧倒的に優越的な立場にあるにも拘らず、勝手にアルゴリズムを変更して、弱い立場にある韓流村に対し、不当に不利益を与えたと主張したいのでしょうか。

 東京地方裁判所は、当該裁判を通じてカカクコム側に優越的地位の濫用があったと認めたわけですが、裁判官はどのようにしてアルゴリズムの変更が、優越的地位の濫用にあたると判断したのでしょうか。どうやら、カカクコム側は、争点となったアルゴリズムの変更内容に関して、裁判の過程では開示したようです。ただし、カカクコムの営業秘密の確保のため、原告・被告の訴訟当事者以外の閲覧を制限するよう申し立て、最終的に裁判所も、当該裁判所内で開示された検証物についての秘密保持命令を発することとなり、閲覧制限がかかった内容については外部に開示されることがないというものです。このように、裁判所内での未開示される手続を「イン・カメラ手続」と民事訴訟法上言われます。インというのは、“中での”という意味ですが、“カメラ”というのは、“裁判官室”というラテン語で、要は密室である裁判官室での開示手続ということです。しかしながら、カカクコムのアルゴリズムが開示されなかったことにより、果たしてどの点が優越的地位の濫用に該当したのかが一般国民には分かりかねることとなり、うがって言えば、食べログのアルゴリズムは、単に利用者の付けた点数以外の“味付け”、すなわち、カカクコムとの間の有償契約のランクにより点数の下駄を履かせているから開示できないだろうと思われるのではないかということです。

 カカクコムとしては控訴するつもりとのことで、控訴審において東京高裁がどのような判断をするかも興味のあるところですが、真に信頼性のおけるグルメサイトとして利用者の信頼を得るためにも、カカクコムとしては、アルゴリズムの基本的ストラクチャーを開示すべきだと思います。グーグルマップ上での店の評価システムは、食べログのような有償サービスなどの費用がかからず、単純に利用者の評価を平均で算出されるため透明性・公平性があるということで、食べログの評価は金で買うものというレッテルが張られることで、食べログ離れが進んでしまうかもしれません。
シェア