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4630万円誤振込事件

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[4630万円誤振込事件]2022.6.1

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 2022年4月8日に、山口県阿武町が新型コロナウイルス対策による住民税非課税世帯への給付金を、本来463世帯に10万円ずつ振り込まなければいけないのに、誤って1世帯に4630万円を振り込んでしまったという事件が起きました。どうやら、阿武町の職員が本来の手続きとは別に1世帯だけ記載された振込依頼書を誤って銀行に提出してしまったために4630万円全額が1世帯に集中して振り込まれてしまったようです。振込手続後に銀行から指摘があってはじめて、誤振込みだと発覚しましたというのですが、銀行において何故おかしいと思わなかったのでしょうか?そこで阿武町側に確認しておればこんなことにはならなかったはずです。誤振込みをしてしまった後に、銀行側が気付いたという点が銀行側の無責任さが表れていると思います。

 問題は、この誤振込を受けた1世帯、24歳の男性Aとのことですが、町に対する返金を拒んだことです。阿武町は、男性の母親にも協力を仰いで、返金手続をするよう求めましたが、男性は『金はすでに動かした。もう戻せない。罪は償う。』と返金を拒否したとのことです。Aは、その後、2週間かけて4630万円のほぼ全額を振込のあった口座から出金してしまったとのことです。Aは、その後萩市の勤務先も退職してしまい、自宅からも行方不明の状態となっています。その後、阿武町がAに対して、4630万円の返還及び弁護士費用の請求をする訴訟を提起したことから、Aの実名が公開されてしまいました。これらの事実から、阿武町は4630万円を回収する可能性はなかったのか、またAの行為は刑事責任を問われないのかを検討してみたいと思います。

 まず、阿武町が誤振込に気付いた以降、4630万円を回収できなかったかです。阿武町職員がAを銀行の前まで連れて行ったが、Aは「手続をせずに今日は帰る。公文書を送ってくれ。」と言い捨てて帰ってしまい、それ以後携帯にも連絡がつかない状態になったということです。そうだとすれば、その時点でAの4630万円の返還の意思がないことが明らかになったわけですから、なぜ、阿武町の管轄である山口地方裁判所萩支部に振込先のAの銀行口座を仮差押えの申立てをしなかったのかということです。被保全債権としては、阿武町のAに対する不当利得返還請求権であり、保全の必要性も、明確にAが返還を拒絶していることで疎明十分と言えるので、裁判所も仮差押決定を出す可能性は十分に高いと思われるからです。阿武町の顧問弁護士も何故仮差押えを選択しなかったのでしょうか?私であれば、ちゅうちょなく仮差押えの申立て(aが銀行の前から逃げた日に早速準備開始して翌日には裁判所に申立書を持ち込むくらいの勢いで)をします。早ければ、裁判所は申し立てたその日に審尋をしてくれて、早ければその日中に仮差押決定を出してくれるでしょうから、その翌日に銀行に仮差押決定が送達され、4630万円全額とはいかないまでも相当額を確保することができたはずです。口座から引き出されて現金化されてしまえば、回収するのは極めて困難になるからです。仮差押えをしてから、Aと話し合いを続行してもいいのです(もっとも、Aは2週間もかけて引き出した4630万円とともにバックレてしまったので話し合いもできなくなったようですが)。きついようですが、阿武町の対応を極めてずさんと言わざるを得ません。人間関係を重視するなどと言うのは、呆けた言い訳にすぎません。町民の税金を何だと考えているのでしょうか。

 4630万円をまんまと引き出したAの行為については犯罪にならないのでしょうか?まず、銀行の窓口に行って、出金票に自分の名前と捺印して出金手続を取るということになりますが、これは自分の金ではないことを知りながら、銀行員を騙して金を取得するということで詐欺罪が成立します。窓口を通さず、ATM機から、自分で画面操作して現金を取得するということについては、他人の金(この場合は、銀行の金という仮借をします。)を秘かに取得したということで、窃盗罪が成立します。それでは、ATM機を操作して、自分の口座から他行の自分の口座若しくは協力者の口座に振り替えをすることはどうでしょうか。これは、今まで詐欺罪にも窃盗罪にもならないのではないかと言われていたので、刑法を改正し、電子計算機詐欺罪というものを新設し、自分の金ではないのに自分の金として虚偽の情報をコンピュータにインプットし、自分らの他の口座に振り替えをするという不正な指令をすることにより同詐欺罪が成立することとなります。従い、Aがどのように預金口座から引き出したかに拘らず、何かの刑法犯が成立することとなります。

 Aは、4630万円を現金化して風呂敷包にでも入れて逃走しているのでしょうが、どうするつもりなのでしょうか。たかが4630万円程度で何年も暮らせないでしょうし。何よりも表に出てこれない、裏の生活をしなければならないこととなります。住民票も移せないので、まともな会社に勤めることはできないし、まともな住居の賃貸借契約も結べないし、まともな結婚もできないでしょう。阿武町との間で和解が成立すれば、刑事的責任については起訴猶予になる可能性もありますが、4630万円に手を付けて使ってしまい弁償もできないとか、また、どこか山の中に隠してありかを言わないとなると、実刑になる可能性も出て来ます。どう転んでもAにとって金に手を出すことはこれからの人生を棒に振ることにしかならないことをよく考えて、潔く阿武町に全額返金して謝罪することしか道がないように思われます。

(追加)
 上記のとおりコラムを書いておりましたら、状況が色々と大きく進みました。Aはやはり電子計算機詐欺罪で逮捕され、銀行口座から流出した4630万円は回収不可能になったかと思われましたが、Aが海外カジノでほとんど費消してしまったというカジノ代行会社に対して阿武町の顧問弁護士が返却を要求し、代行会社らは任意に預かった金額を阿武町に返却したので、9割がた回収できたとのことです。
 阿武町の顧問弁護士は、国税徴収法を駆使して代行会社に対して差押えをして返却を促したとのことで、なるほど五町村の顧問弁護士なので、国税徴収法を使うという技があったかと感心した次第です。私のような民間人同士の取り立てをやっている者にとっては、国税徴収法という債務名義も要らないいわば飛び道具を使うという発想にならないので、感心しました。しかしそれならば、最初から銀行のAの口座に国税徴収法で差押えをしておけばこれほど大騒ぎにならなかったし、何よりA自身引き出すことなかったのだから犯罪者になり、実名を全国津々浦々まで公表されなくて済んだのではないかと思う次第です。
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