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トヨタの行く末

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[トヨタの行く末]2022.2.1

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 写真フィルムといえば、21世紀になるまでは米国のコダック社と日本の富士フィルムが二大巨頭でした。ところが、21世紀になり、デジタルカメラの急激な普及のため、フィルム市場の急激な衰退が進行しました。コダック社は、写真フィルム事業であまりに成功した為か、デジタルカメラの商業化を見送るなどデジタル化の波に乗り遅れ、2012年1月19日、連邦倒産法第11章(日本でいう民事再生手続)の適用をニューヨークの裁判所に申請して上場廃止となり、事実上倒産してしまいました。ここでよく言われた「コダック・モーメント」とは、「市場が急激に変化する決定的瞬間」を意味することに使われ、コダック社は、旧分野での大きすぎる成功のため、新たなイノベーションに乗り遅れる「イノベーションのジレンマ」、または新興の技術が、旧来の優れた技術を破壊的に駆逐する「破壊的イノベーション」の代表的な犠牲者として知られることとなりました。コダック社は、倒産後、法人向け商業印刷を柱にして経営再建を果たし、企業規模を大幅に縮小して2013年にNYSEに再上場できましたが、企業規模は最盛時と比べて見る影もありません。

 自動車業界を俯瞰しますと、世界中でEVシフトが加速度的に進んでいます。2021年7月、EUが2035年にハイブリッドを含むガソリン車の販売禁止を決めました。アメリカはカリフォルニア州などが2035年までにZEV(ゼロ・エミッション・ビークル)以外の販売を禁じることを決めました。その後、バイデン米大統領が、2030年までに新車販売の占めるEVの比率を50%とする大統領令に署名しました。ここで重要なのは、EUの規制においては、ハイブリッド車についても販売禁止となることです。自動車メーカーでは、ゼネラル・モーターズは2035年までにガソリン車を全廃し、フォルクスワーゲンは2030年にVWブランドで欧州販売の7割以上をEVにすること、メルセデス・ベンツは、2030年に全車種をEVにすること、日本メーカーでも、ホンダがグローバルで売る新車を2040年までに全てEVと燃料電池車(FCV)にすることとしています。

 それに対し、トヨタは2021年12月、2035年までに西欧で販売する全ての新車をゼロエミッション車(ZEV)とする方針を発表しました。しかしながら、トヨタの言うZEVとは、HEV(ハイブリッド車)やPHEV(プラグインハイブリッド車)、EV、FCV(燃料電池車)であり、EV100%ではないということです。トヨタ、特に豊田章男社長は、「カーボンニュートラル」という言葉を多用しますが、要は、自動車メーカーとしてはCO2の排出をプラスマイナスゼロにすれば社会的使命を果たしたということのようです。そこで、2016年頃から開発を進めていた水素エンジンを富士スピードウェイの24時間耐久レースに実戦投入していることは、TVコマーシャルでも大々的に宣伝しています。トヨタが水素エンジンの開発を進める理由として、豊田章男社長は「自動車全部がEVになったら日本では100万人の雇用が失われる。一つの選択肢ではなく、今まで磨き、蓄積してきた、やり方によって未来がある。」と説明しています。トヨタ社長の発言は、自動車においては、その構成部品約3万点のうち3分の1にあたる1万点の部品がエンジン関連の部品であるため、内燃機関の損失による雇用損失や国際競争力の低下を抑止するという意図があるものと受け止められています。

 従い、現在、トヨタにおいては、経営資源を内燃エンジン車、HEV,EV,FCVの4つに振り分けているようですが、果たしてHEVや水素エンジン車などに注力していって大丈夫なのでしょうか。欧米・中国の自動車メーカーは、電気自動車(EV)開発に経営資源を集中しています。上述したとおり、EUにおいては、2035年にハイブリッド車を含むガソリン車の販売禁止が決定されており、中国市場においても、“現在においては”ハイブリッド車の販売を禁止まではしていませんが、朝令暮改の人治国家である中国のことですから何時ハイブリッド車の販売が禁止されるかもわかりません。アメリカも同様でしょう。これ以上、トヨタとしてハイブリッド車に経営資源を投入することは、最終的に日本しか走れないガラパゴス車を作っていくことになりかねません。水素エンジン車についても、トヨタ自身、「2035年までに西欧で販売する新車全てをゼロエミッション車とする方針について、充電インフラや水素ステーションが十分に整備され、再生可能エネルギーによる電力のキャパシティーが必要な水準まで増加することが前提だとしている。」と言っていますが、充電インフラの整備は着々と進むでしょうが、実質トヨタしか開発を進めていない水素エンジン車のために、欧州各国が水素ステーションの整備を進めるわけがないでしょう。日本ですら、水素ステーションなど岩谷産業などが旗を振る程度でガソリンスタンドのレベルと比較して全くというレベルで普及していません。やはり、トヨタとしては世界の流れに逆らうことなく、EVに経営資源を集中していくべきではないかと思います。豊田社長の水素エンジンへの傾倒は、デジタルカメラの普及に逆らおうとしたコダック社を彷彿とさせるものがあります。このままでは、倒産とまではいかないまでも世界のトヨタは、ガラパゴスの王者としてしか生き残れなくなるかもしれないことに危惧を感じるのは私だけでしょうか。豊田社長に諫言する社員がいないこともトヨタにとって不幸なのかもしれません。
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