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徴用工裁判の行方

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[徴用工裁判の行方]2019.2.1

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 2018年10月30日、韓国の最高裁にあたる大法院は新日本製鉄(現、新日鉄住金)に対し韓国人の原告4人へ1人あたり1億ウォン(約1000万円)の損害賠償を命じる判決を下しました。徴用工裁判の詳細については、多くのメディアで報道されていますので、説明を割愛しますが、要は、終戦までに日本統治下にあった韓国内で、日本政府に強制的に徴用され、労働に従事された元徴用工が、その強制労働に対する損害賠償を請求するものです。何でも、徴用工関連では現在、15件の訴訟が提起されており、被告となる対象企業は70社を超え、新日鉄住金の他にも、三菱重工、日立造船、住友化学など日本を代表する企業が多く含まれています。果たしてこのような判決は有効なのか、今後どうなっていくのかについて検証してみたいと思います。

 まず問題となるのは、日本統治下において日本企業が韓国国民に対してなしたとされる不法行為(強制労働が事実だとすれば、不法行為の問題になりますので)について司法上の損害賠償請求ができるのか、私人対私人の民事的請求、ひいては強制執行までできるのかです。1965年に締結された日韓基本条約に付帯する協定として、「財産及び請求権に関する問題の解決並びに経済協力に関する日本国と大韓民国との間の協定(日韓請求権並びに経済協力協定、以下、請求権協定といいます。)」が締結されました。その第一条には、「日本国が大韓民国に経済協力(合計5億米ドル−無償3億米ドル、有償2億米ドル)する」こと、第二条には、「両国は請求権問題の完全かつ最終的な解決を認める」こと、第三条には、「両国はこの協定の解釈及び実施に関する紛争は外交で解決し、解決しない場合は仲裁委員会の決定に服する」ことと定められています。韓国私人の日本私人に対する請求権が成立するかは、この第二条に関わってきますので、ちょっと長くなりますが、第二条一項を引用してみましょう。「両締約国は、両締約国及びその国民(法人を含む。)の財産、権利及び利益並びに両締約国及びその国民の間の請求権に関する問題が、千九百五十一年九月八日にサン・フランシスコ市で署名された日本国との平和条約第四条(a)に規定されたものを含めて、完全かつ最終的に解決されたこととなることを確認する」と規定されています。日本側においては、最高裁が、日本における韓国民の財産請求権は「日韓請求権協定協定第二条の実施に伴う大韓民国等の財産権に対する措置に関する法律」(財産措置法)により消滅しているとし、個人の個人に対する請求権は認めなかった判断をしていますが、韓国側では、今回の大法院の判断が個人の請求権を認めるという判断をしたわけで、同条項の解釈が割れていることになります。同条項において、“両締約国及びその国民の間の請求権”という文言からは、日韓政府間、日韓の私人間の請求権と読み取ることができると思うのですが、いかがでしょうか。そうすれば、今回の韓国大法院の判決は、請求権協定第二条一項違反ということで、原告の請求棄却となるはずなのですが。

 今回の大法院の判断が条約違反かどうかの判断はともかく、一応韓国法上、請求権が確定したということで、被告である新日鉄住金が任意で賠償金を支払わなければ、韓国国内においては強制力のある確定判決ですので、韓国国内に存在する新日鉄住金の資産に対して、強制執行を掛けることは可能ということになります。早速年明けからその動きがあり、原告2人が大邱(テグ)地裁浦項(ポハン)支部に申請した新日鉄住金の韓国内にある資産の差押えが1月3日付で認められたとのことです。何でも、差押えの対象になった資産は、新日鉄住金が韓国の鉄鋼大手ポスコと合弁で設立したリサイクル会社PNRの株式(新日鉄住金は全体の約3割にあたる約234万株、110億ウォン(約11億円)相当)であり、このうち賠償額に相当する8万1075株が差し押さえられたとのことです。原告団は「新日鉄住金が早期に被害者との協議に応じない場合、同株式の売却命令を申請する」と主張しているとのことです。手続としては、同株式を競売に付することになりますので、第三者の手に渡るとPNR社の事業運営にも影響が出てくると思われます。

 それでは、今回の大法院の判決に基づき、新日鉄住金の日本国内の資産を差し押さえることはできるのでしょうか。日本では,外国裁判所の確定判決は民事訴訟法118条各号に定める要件を全て満たしている場合に限って,日本国内においては自動的に承認されるものとしています。民事訴訟法118条を引用してみましょう。

(外国裁判所の確定判決の効力)
第118条 外国裁判所の確定判決は、次に掲げる要件のすべてを具備する場合に限り、その効力を有する。
一 法令又は条約により外国裁判所の裁判権が認められること。
二 敗訴の被告が訴訟の開始に必要な呼出し若しくは命令の送達(公示送達その他これに類する送達を除く。)を受けたこと又はこれを受けなかったが応訴したこと。
三 判決の内容及び訴訟手続が日本における公の秩序又は善良の風俗に反しないこと。
四 相互の保証があること。

 新日鉄住金としては、日本国内の資産に対して差押申立てがなされた場合、民事訴訟法118条一号において、韓国大法院の判決は条約による裁判権が無いことを主張するか、同条四号の“相互の保証”が無いことを主張して、日本での強制執行を停止させるということになりましょうか。相互の保証というのは、相手方国においても同様に当該国の裁判所の確定判決を承認する手続(民事訴訟法118条と同様のもの)があることを保証していることになりますから、同やら韓国には今のところ、相互保証はなさそうなので、この要件でも執行停止を主張できるものと思われます。

 いずれにしましても、請求権協定第一条が争点となるわけですから、請求権協定第三条において、「両国はこの協定の解釈及び実施に関する紛争は外交で解決し、解決しない場合は仲裁委員会の決定に服する」ことを規定していますので、日韓両政府はまずは、話し合いをして、それでも解決しない場合は仲裁委員会を構成してそこでの解決を目指し、それでも解決しないようであれば、国際司法裁判所に提訴するということになりましょうか。しかしながら、国際司法裁判所においても、相手方当事国が出席しない場合には、開廷することができないので、韓国側が応訴を拒めば裁判できないこととなり、問題が長期化する恐れがありましょう。
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