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市の名称の命名権を売却する狙いとは?

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[市の名称の命名権を売却する狙いとは?]2012.4.1

 3月22日付日経の朝刊を見て驚いた。大阪府の泉佐野市が財源確保のために、市の名称の命名権を売却するとのことである。球場とかホールなどではよく聞くが、自治体の名称を売却するというのは前代未聞である。野次馬的には、どのようなレベルで命名権を与えるのか興味がある。例えば、トヨタ自動車泉佐野市という冠程度なのか(それでも度肝を抜くが)、日産自動車市という完全に明け渡すのか、後者だとすると市民感情はいかがなものか。また、トヨタや日産のような“きちんとした”企業ならともかく、“いかがわしさ”の漂う企業しか応募しなかったらどうするつもりなのか、その線引きも難しそうな気がする。翌日には、早速総務大臣から泉佐野市のアイデアに対し懸念が示されたとの報道があった。確かに、昔のライオンズのように毎年球団の名称が変わるというのはいかがなものかと思う。

 今回、泉佐野市が背に腹は代えられないアイデアを出してきたのには、同市の財政状況が相当苦しいからとのニュースも聞こえてきている。破綻寸前との声もある。財政破綻した地方公共団体としては北海道の夕張市が有名であるが、夕張市の場合は、地方財政再建促進特別措置法(いわゆる再建法)に基づく財政再建計画による処理方法であった。再建法は、その後廃止され、代わりに地方公共団体の財政の健全化に関する法律(いわゆる健全化法)が平成21年4月から施行されている。同法においては、再建法のようなストレートな破たん処理だけでなく、"危なくなってきた"自治体に危機に陥る前の段階での財政の早期健全化を試みる段階を想定している。

 私は、財政破たんして財政再生計画策定の過程において、破たん自治体に対する債権者、特に地方債を保有する債権者の権利変更、ざっくばらんに言えば借金の一棒引きがなされるものと思っていた。しかしながら、債権法にも、それを受け継ぐ健全開放にも権利変更に付いては何ら規定がなく、地方債協会というところのHPの「地方債Q&A」では、地方債については全額それも元利とも保全されるのが原則と知って驚いた。地方債を購入するのは多くが金融機関だろうから、地方自治体が破たんしても金融機関は痛みを負うことがないということになる。破産法や民事再生法では、債権者は相当額の債権カットを受けるのであるから、金融機関としては貸倒なしの"優良貸付先"ということになるのか。結局は、国の管理下で財政再建ということになるのだが、そのつけは国民に回ってくることになる。

 まだ、破たんする自治体が少ないうちはこのシステムでも回るのかもしれないが、今後、破たんする自治体が増えた場合、国自体が破たんするかもしれないと懸念されている状況下、果たして国が破たん自治体を支えきれるのであろうか。国及び地方自治体もろともクラッシュダウンしかねない危うさを感じる。やはり、リスクを取って地方債を購入するという意識を金融機関も持つ必要があるのではないだろうか。

 それでは、最悪の事態、国も自治体も破たんしてしまったら、どうなるのか。再生ができないとなると、清算しかないが、現行の健全化法では再生することしか規定がなく、清算に付いての規定がない。となると、倒産法制の原則では、破産法の適用を考えざるを得ないが、破産法の勉強をすると出てくる論点として「国や地方自治体などの甲法人が破産できるのか」という破産能力の問題となる。多数説では、国・自治体に破産能力を認めていない。理由としては、国や自治体は"本源的"統治団体であり、破産してしまうと統治機能を阻害することになってしまうからであるといわれている。たしかに、日本国が破たんしたからと言って政府や、国会、裁判所が解体するわけにもいかないであろう。となると、再生もできない、清算もできないとすると、やはり地方債の一部免除を念頭に入れた権利変更条項を健全化法に盛り込むことが必要となるのではないか。泉佐野市の命名権の話から随分と脱線したが、国債や、地方債がデフォルトとなる場合、どうなるかまで考えた次第である。