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松本清張の時代

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[松本清張の時代]2021.9.1

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 最近、小さな字が読みづらく、特に明るさがないととても文庫本などが読めなくなり、電子書籍を活用するようになりました。電子書籍もだいぶ普及してきましたので、新刊本のみならず、結構昔に出版された本についても電子書籍化されるようになりました。それで、最近はまっているのが、松本清張と源氏鶏太で、(松本清張は活躍の期間が長いのですが)特に終戦後一般庶民の生活が落ち着いてきた昭和20年後半から昭和30年代に書かれた小説を結構読んでいます。もう今から半世紀以上も前の話ですから、色々と隔世の感がある場面が出てきて、現代との比較をするとなかなか面白いものがあります。今回は、その現代とのギャップを色々と取り上げてみたいと思います。

 まず松本清張と言えば、「点と線」で著名なように鉄道に絡めたストーリー展開が得意です。昭和20年代後半になると終戦後の混乱した鉄道事情が改善され、多くの特急、急行などの優等列車、寝台列車が走るようになっています。しかしながら、新幹線の開通前ですので、何処に行くのでも相当時間がかかっています。東京を夕刻出発する九州方面行の特急や急行でも博多などに到着するのは翌日の昼遅い時間から夕刻と丸一昼夜列車に乗っているという感じです。驚くのは、寝台車が付いていてもお金のない人たち(出張費が抑えられている刑事さんたちとか)は、固定されたボックス席にずっと丸一昼夜座りぱなしというのがスタンダードだったようであり、現代と比べると当時の列車での旅行はとてつもなく疲れるものだったようです。

 服装に関して言えば、特に源氏鶏太などは東京の丸の内あたりで働く女性(昔はOLといわず、BG〈ビジネス・ガール〉と言ったようですが)を描くことが多いので、現代の女性のファッションとあまり違和感を感じないのですが、松本清張が生活に追われて衣服にお金が掛けられていない人々を描く場合には、男性であれば“よれよれの背広”とか、女性であれば“いかにも安物の化繊の服”というような一見して貧乏な人々というのが分かる表現をするのですが、現代では、衣服も材料が進歩して中々よれよれにならず、かつファストファッションのように安く買えるようになったのでいかにも安物の服というのが一見してわからなくなっています。逆に、このことが隠れ貧困を顕在化させないので、現代の貧困問題は根が深いといわれることにもなっているようです。

 人の話し方についても、たかが半世紀前にもかかわらず、現代とは相当違っているようです。松本清張、源氏鶏太が描く中流以上の女性は、他人に対しては当然、夫に対しても驚くばかりに丁寧な言葉を使っています。ちょうど、サザエさんのフネさんが波平さんに対する言葉使いがスタンダードであり、現代のようなタメ口のような話し方をしていません。男性はというと、例えばレストランなどでホール係に対しては、男性に対しても、女性に対しても非常に“威張った”話し方をしています。「おい、君、メニューを持ってきたまえ。」とか、「灰皿がないじゃないか。けしからんね。」とか、現代の基準からすればハラスメントになりそうな感じです。このあたり、男女間の格差、客と店員との格差などが大きかった時代だったと言えましょうか。話し方と言えば、松本清張の小説でも、源氏鶏太の小説でも、部下が上司に対して呼びかけるのに、「○○課長さん」のように「名前+役職」に「さん付け」をするのが現代とは違っているなと思いました。現代だったら、「○○課長」か、「○○さん」というのが普通でしょうから。

 何よりも、松本清張でも源氏鶏太でも驚くのが、60歳の人を表現するのに躊躇なく“老人”としているところです。60歳どころか50代後半でも相当年を食った人という表現をしており、これは男性でも女性でも同じです。50代後半の女性は十分“おばあさん”のようです。これは、この半世紀で平均寿命が格段に伸びたことが一番にあり(昭和30年の男性の平均寿命は63歳、女性は67歳!)、それに伴い、会社での定年も55歳だったのが60歳になり、現在では65歳まで雇用を確保しなさいということになっていますので、現代ではとても60歳で老人とは言えないということになっているからでしょうか。女性の場合は、また化粧品などのアンチ・エイジングの技術レベルが格段に進歩したこともあるでしょう。

 といったように、半世紀前の風俗、文化とは相当のギャップがあるにもかかわらず、松本清張、源氏鶏太の小説を読んでいても、人としての行動パターン、考え方についてはあまり違和感を感じることはなく、やはり太平洋戦争の前後で大きな差があり、戦後に確立された日本人の行動パターン、考え方は現在に至るまで脈々とつながっていると思った次第です。
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